「矛先」と「裾野」

マーケットには次々と新語が生まれるが、この1月に米国で『ロビンフッターズ』という言葉が生まれ、市場を席巻した。

これは米国のロビンフット証券が提供する手数料無料証券投資アプリを用いて売買する人たちを指す言葉だが、SNSを用いて一部の銘柄買い煽(あお)る動きは結果的に市場の動揺度を高め、指数の下落を招いた。

「買い煽り」なのになぜ他の銘柄や指数の下落を招いたのかと言えば、この買い煽りが、空売りが溜まっている流動性の低い銘柄に向けられたことが理由である。株価上昇から空売りをしていた投資家にマージンコール(追加の証拠金・担保の差し入れ要求)が出され、この捻出のために保有している株式を売却するという動きが広がった。ヘッジファンドには「ショートセル」という空売りのみを行うファンドもあり、これは多くのヘッジファンドを組入れているファンドオブファンズなどにもヘッジ的に組入れられていることが多いのだが、SNSの書き込みには「これらのショートセルファンドをスクイーズ(株価を上昇させること)によって破綻させてしまおう。個人がファンドに勝つのだ」という主旨のものが多く、ゲーム専門店のゲームストップ、映画館のAMCエンターテインメント・ホールディングス、衣料品のエクスプレスなどの株価が急騰するとともに、テスラなどこれまでの相場を牽引してきた銘柄に狼狽売りが広がった。

ゲームストップの株価推移を見てみると、1月12日時点で20ドル以下であった株価は急騰し、1月27日には347.51ドル(何れも引け値ベース)にまで上昇した後、今度は急落を繰り返し、先週末の2月19日時点で40.59ドルにまで低下している。無論、出来高もこの株価下落に伴い急減している。

私は、「投機筋」とは「市場に流動性は与えるものの、健全性は与えない投資家」のことだと考えている。空売りが溜まっているという理由だけで、株式の世界を飛び越えて「銀先物」までも標的にした今回の『ロビンフッターズ』の動きは、まさしくその象徴的なものだ。

今回、その動きは収まったと言われているが、実際は空売り銘柄を対象としなくなっただけで、医療用大麻会社大手のカナダのティルレイを買い上げるなど、1つの材料で株価を集中買いで一時的に上昇させるという形は継続している。「矛先」を変えただけなのだ。

今回、『ロビンフッターズ』となった者の多くが、証券投資を始めたばかりの若者だと言う。調査機関によると、昨年の米国家計部門の貯蓄増加額は四半期の前年比で2倍を超える期があるなど、大きく投資の待機資金が膨らみ、ネット証券を介してそれが証券市場に流入しているという。このことは、日本においても、リモートワークの普及とともに新規のネット証券の口座開設が急増した事象と符合する。

そして、この資金が政府のコロナパッケージから生まれたことは疑問の余地がないが、今年生まれたもう1つの言葉『リフレーション・トレード』は、コロコロ変わる「矛先」ではなく、「裾野の広がり」を感じさせるものである。

大型の経済対策による景気回復や物価上昇期待の高まりから株式を買うという行為は、バイデン政権の「GO BIG(思いっきりやる!)」という掛け声で増幅された側面が強いが、実質金利が過去最低のマイナス水準であるということと、いずれかのタイミングで好景気から(上記の)物価上昇期待が起きるということが共存していることが現在の相場の強さの源である。

コロナショック後に反騰していった米国株指数の牽引役は、まずコロナ禍でも業績が落ちなかった一部のハイテク銘柄株であり、その後11月からはコロナ禍で大きく売られた銘柄の見直し買いにバトンが渡り、その後テスラのS&P500指数採用で再度ハイテク株に移っていった。

今年の指数上昇率を見ると、先週金曜日(2月19日)時点で、ダウ平均:2.90%、S&P500:4.01%、NASDAQ総合指数:7.65%となっており、まだハイテク株主導の相場展開となっているように映るが、このNSDAQ総合指数を上回る上昇率を記録している指数がある。それは、ラッセル2000で実に14.77%も上昇している。時価総額2001番目からの2000銘柄で構成されるこの指数の特徴は、やや中小型の内需関連銘柄が多いことである。確実に相場の「裾野」は広がっているのだ。


(スプリングキャピタル株式会社 代表取締役社長 チーフ・アナリスト 井上 哲男)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。