グロース株リバウンド高ストーリーはこれだ

「疑心暗鬼が急落を演出」

 年初の株価下落からカウントすると今回が4度目の安値局面となる。日経平均は9月28日のザラ場で一時2万6,000円台を割り込んだ。8月17日にザラ場高値29222円77銭があったことを振り返ると、下げ足は早く下げ幅は大きい。もちろん主因は「米金融引き締め継続」だ。9月の米FOMCでは大方の予想通り0.75%FF金利が引き上げられたが、それ以前にパウエル米FRB議長を始めとする米FOMC参加者がインフレ退治のため、さらなる金融引き締めへの強い姿勢を示し、それを後押しするかのように米消費者物価指数(CPI)が高止まりを示した。利上げ継続による米景気減速への懸念が拡がり、投機、見切り、懸念さまざま「質」の売りが出て株価下落につながった。東京市場においても割高なグロース株、割安なバリュー株を問わず売られる展開となった。ほぼ同時に以下の懸念材料が出たことも株式市場にとってはさらなる逆風となった。

・円安の急な進行と政府
・日銀による為替介入
・ロシアの部分動員令(予備兵招集)とそれに伴う懸念
・イタリア総選挙での極右政党勝利=政局不安
・イギリス政府による減税案をきっかけとする英国債
・ポンド売り

 仮に株式市場が堅調な局面であると、ほとんど気にされない材料でもある。政府・日銀が9月22日に行ったドル売り円買い為替介入はその最たるものだろう。「1998年6月以来、約24年ぶり」という文言によって「めったとないこと」、「通常時ではない」と強調されたが、今回の介入は米利上げと日銀による大規模金融緩和の維持が決定された時、日米金利差拡大に目を付けた投機的な円売りが進行したタイミングで“投機を抑え込む目的”で実施されたものと推察される(再びほぼ介入前の水準に戻っている)。金融市場に一定の変動をもたらすものではあるが、直接の株売り材料となるものとは言えない。ロシアの部分動員令やイタリアでの政権交代も、ウクライナ戦局への影響や、EU(欧州連合)が足並みをそろえる対ロシア制裁への影響が想定されるものの、現実的には大きな動きがあったわけでなく、イギリスの減税については局面が違えば好感される類のことだろう。株式市場における不安材料が増えたわけではなく、米利上げについての疑心暗鬼がすべての根源となっていると思われる。

「FOMC参加者の態度変化はあるか?」

 とくに米国経済については「コロナによる需要増加の収縮局面」ということを理解しなければならない。米国でのスマホやPCの販売、不動産価格が下落していることが「景気後退シグナル」と指摘されるシーンが増えてきたが、これについてもコロナ特需で想定外に膨れ上がった需要が平準化している段階と理解すべきだろう。米不動産価格下落についても、コロナ禍において不動産価格がより上昇した地域(前年比20%上昇など)がとくに下落しているとの調査もある。やはりコロナ特需剥落によって平常時に戻る過程のことだろう。CPI高止まりの主因として指摘される「賃貸料(家賃)」についても、不動産価格が上昇し過ぎたことによって賃貸シフトが起こり上昇していった経緯がある。もともと家賃は不動産価格の動向に遅行する性質があり、早晩落ち着きを示すものと思われる。

ところで、続々と米景気減速を示す指標が示されてくると米金融当局はどのような反応を示すだろうか?パウエルFRB議長を中心とする FOMC 参加者は、それでもインフレ抑制に向け景気悪化を招くことを辞さない覚悟を示し続けることができるのだろうか?実はこの見通しがこの局面でもっとも重要な事柄になると思う。1979-1987年に米FRB議長を務め、オイルショック後の激しいインフレ局面において金融引き締めを起こったポール・ボルカー氏(2019年没)は、著書の『ボルカー回顧録』(2019年刊)で、景気後退が見え始めた1979年のFOMCで、利上げの是非についての投票で表決が割れたことを明かしている。景気後退が近づいたことから一時的に利下げに転じざるを得なくなり、オイルショックに端を発するインフレ抑制が遅れたことを後悔する内容だ。当時は、1980年に導入した信用供与規制(特定の企業に対する貸出が銀行の自己資本の一定割合を超えることを禁止)等によって急激に金融環境がタイト化した背景もあるが、景気後退に直面した際に、FOMC参加者が一枚岩となり利上げを継続することは困難という点において参考になるものだ。パウエル議長は実は当時のことを引き合いに出し「同じ轍は踏まない」としているが、果たして今のインフレ局面はオイルショック当時ほど急激だろうか。本年の米FOMCはあと2回予定されている(米時間10月27日-28日、12月19日-20日)。ここで「手のひら返し」に近い動きについて、投資家が想定しているならば、景気後退を示す経済指標が発表された後に米株価が反発を示す場面が見られるかもしれない。そうなると、東京市場では直近売られたグロース株のリバウンドが見られることになりそうだ。

【反発が期待されるグロース株】

・ソニーグループ(6758・プライム) 

・キーエンス(6861・プライム) 

・日本電産(6594・プライム) 

・リクルートホールディングス(6098・プライム) 

・ファーストリテイリング(9983・プライム) 

(株式ジャーナリスト 天海源一郎)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、カイカ証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。