導入開始まで1年を切ったインボイス制度

最近、『インボイス制度』というワードが目に付くようになってきました。TVCMでもシステムソフト会社のCMなどで、この言葉をよく耳にします。特に中小企業の経営者や個人事業主の方にとっては、差し迫った課題になってきています。

そもそもインボイス制度とは、2019年の消費税率引き上げの際に、食品などに適用された軽減税率の8%と通常の10%が、どの取引に適用されるかを正確に把握する必要があるため、導入が決まりました。売り手が買い手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝えるもので、従来の「区分記載請求書」に加えて、「登録番号」、「適用税率」、「消費税額等」が記載された書類やデータなどのことを「適格請求書(インボイス)」といいます。売り手である登録事業者は、取引相手である買い手から請求があれば、インボイスを交付しなければならず、交付したインボイスの写しを保存しておかなければなりません。一方、買い手は仕入れ税額控除の適用を受けるために、売り手となる登録業者から交付されたインボイスを保存しておく必要があります。インボイスがないと買い手が仕入れにかかった消費税を差し引くことができなくなります。

差し迫った課題というのも、23年10月にスタートするインボイス制度ですが、インボイスを発行するためには、「適格請求書発行事業者」にならなければなりません。すでに昨年10月から登録申請が始まっていますが、登録事業者になるためには登録申請書を税務署に提出し、登録を受ける必要があります。また、従来の請求書に比べて、適格請求書は記載項目が多く、中小企業にとっては大きな事務負担になります。しかし、この登録をしてインボイス対応をしなければ、買い手側が適用できる仕入れ税額控除の1段階目の経過措置期間(令和8年9月30日まで)まではギリギリ許してくれる取引先があったとしても、その後は下請け先から外されたり、発注規模が低下したりする可能性があります(下請法の規制があるとはいえ)。

ただし、混乱を回避する目的もあって、政府・与党は小規模事業者の少額取引については、インボイスがなくても控除が受けられる特例措置を設ける見通しとなりました。とはいえ、インボイス制度のスタートは、大きな変化には違いありません。また、上記で紹介した小規模事業者向けの特例措置もあくまで時限的なものとみられ、最終的には完全導入に向かう方向ですから、対応については恐らく時期の早い遅いの違いでしかありません。

インボイス制度とあわせ、2024年からは改正電子帳簿保存法の施行で基本的に(※足元で特例の報道)請求書のデジタル化が確定路線です。売り手と買い手との間だけでなく、税務署や関与する税理士への通知もスムーズに行われることになります。政府もデジタル庁を中心に、税のDX化を推進しています。例えば既に課税庁側のお金の流れの捕捉能力は昔と比べて格段に高まっているとされ、「パパ活」や「ギャラ飲み」で大きな金額を稼いでいるのに税務申告を行っておらず、追徴課税を受ける事例も足元でかなり見られています。これは、泳がせる期間が終了したことによる動きと言えそうです。

話が少し脱線しましたが、税周りのDX化は会計ソフト会社にとっても大きなビジネスチャンスとなるでしょう。中小企業向けクラウドの開発・販売・支援や経費精算ソフトを手掛けるラクス(3923)は電子請求書発行システム「楽楽明細」がインボイス制度に対応しています。インフォマート(2492)が手掛ける「BtoBプラットフォーム請求書」は、国内シェアトップ、79万社以上が利用しているといいます。また、個人向け家計簿アプリと法人向けバックオフィスSaaS事業を展開するマネーフォワード(3994)は、会計ソフトだけでなく、経費や請求書管理ソフトなどをクラウドで展開しています。スモールビジネス向けクラウドERPサービスを手掛けるフリー(4478)は、インボイスの申請書類作成や対応診断などを手掛けています。さらに、パッケージソフト大手の ピー・シー・エー(9629)はインボイス制度の実務に対応した製品を展開しています。TKC(9746)、ミロク情報サービス(9928)なども、当然関連企業として注目されそうです。

(カイカ証券)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、カイカ証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。