『社員も企業も避けて通れない道「リスキリング」』

 最近、「リスキリング」という言葉を目にする機会が多くなりました。英語では「Re-skilling」となります。直訳すればスキルを学び直すことですが、経済産業省の定義では「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること、させること」とされています。デジタル化に伴う技術革新や新たなビジネスモデルへの対応が求められる昨今、リスキリングは特に中高年社員にとっては避けて通れない道と言えるのではないでしょうか。

 「リスキリング」が今のようにいたるところで目にするようになる前には、これと似たような言葉で「リカレント教育」という言葉がしきりに叫ばれていました。ただ、こちらはいったん職場を離れて、新しいことを学んだうえで、職場に戻るというスキルアップの方法です。「リスキリング」は、現在の職業(職場)でより高い価値を創造するために必要なスキルを身に付けることで、単なる「学び直し」というものではありません。

 コロナ禍もある種追い風となる形で企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)化が急速に進んでいます。たとえ、製造現場や販売現場にいても、ある程度のITスキルがないと、作業を効率的に進めることが難しい時代がやってきています。海外ではアマゾンやウォルマートなどがリスキリングによって、非技術系人材を技術職に移動させたり、eコマース対応機器の操作をバーチャルに学ばせたりする仕組みを取り入れています。日本でも日立製作所<6501>が国内のグループ企業の全社員(約16万人)を対象に、DX基礎教育を実施しているほか、富士通<6702>なども「リスキリング」への取り組み強化を表明しています。また、三菱商事<8058>住友商事<8053>など商社でも、AIを扱えるDX人材の育成を目指しています。そもそも、「リスキリング」という言葉が世界的に使われるようになったのは2018年の世界経済フォーラム年次会議(ダボス会議)の「リスキル革命」を銘打ったセッションが行われるようになってからだといわれています(2020年1月の会議では、「2030年までに世界で10億人をリスキリングする」という宣言も)。

 岸田首相は10月3日に行われた所信表明演説で、リスキリング支援制度を総合経済対策に盛り込み、5年で1兆円を投じると表明しました。リスキリングによって、個人のスキルを高め、生産性を上げて、企業価値を高めることにより、賃金の上昇を図るほか、人材の流動化や高齢者雇用の促進にもつながり、岸田首相が掲げていた「人への投資」や「企業間の労働移動の円滑化」による「新しい資本主義」の実現に向けた第一歩となりそうです。今後ますます不足していくDX人材を、これまでのように外部から採用するには限界があります。加えて、かつての55歳から60歳、そして65歳へと定年が引き上げられ、70歳定年が努力義務となった昨今。そして近いうちに70歳定年の義務化も恐らく確実と考えられるなか、特に中高年社員の職能領域を早い段階で少しでも広げておくことは、相対的に社員の平均年齢が高い大企業にとっては死活問題です。したがって、「リスキリング」は社員自身はもちろんのこと、企業にとっても当然避けて通れない道です。前述のように海外企業ではオンライン講座を利用した「リスキリング」が一般的となっています。例えば、日本企業でもこうしたサービスを提供する日本オラクル<4716>やパーソルHD<2181>、インソース<6200>、リンクアンドモチベーション<2170>、ブリッジインターナショナル<7039>などが注目されています。また、人材の流動化ではエン・ジャパン<4849>、パソナグループ<2168>、ビジョナル<4194>、リクルートHD<6098>なども需要の伸びが期待されるでしょう。

 読書をしない社会人が実はかなり多いという調査を筆者も目にしたことがありますが、自分のことを冷静に振り返ったときに、「昔話ばかりしてしまっているな…」「新しい(自分が知らない)知識を積極的に獲得する努力ができていないな…」と思い当たる部分がある方はかなり多いのではないでしょうか。10年単位で見た時に、同じく時間がない中でそういった努力をしてきた人としてこなかった人の間に、大きなビジネス力(人間力と言い換えても良いかもしれません)の差が生まれていることは想像に難くありません。幸いなことに今は「読書の秋」。思い立ったが吉日の精神で近くのお店に寄って、気になる書籍を見つけてみてはいかがでしょうか。

(カイカ証券)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、カイカ証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。