日本を取り巻く安全保障環境は今年大きな転換点を迎えました。ロシアによるウクライナ侵攻や中国による台湾統一に向けた威圧行為、さらに、北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射など、いずれも国際社会の秩序を脅かすもので、これらの国々と隣接する日本にとっては、喫緊の課題となってきました。
ちなみに足元では、政府が今月中旬に改定する「安保3文書」で、空からの脅威に一元的に対応する「統合防空ミサイル防衛(IAMD=Integrated Air and Missile. Defense)」の構築を掲げる方向で検討に入ったと産経新聞が報じています。IAMDは米軍が推進しているもので、日本は類似構想として、現在の防衛政策の指針「防衛計画の大綱」(※平成30年改定)で総合ミサイル防空を打ち出しています。ただし、大きな違いは敵領域内での打撃力の有無となります。平成30年の大綱改定の際にIAMDに関する検討もあったようですが、当時は政治的にも見送った経緯があります。これだけ大きな変更に向けて動きだしていることからも、それだけ足元の状況が切迫していることがわかります。
現在、防衛費は22年度当初予算でおよそ5兆4,000億円と、GDP比1%強の水準に当たります。政府・与党はNATO諸国と同程度のGDP比約2%の水準まで、5年以内に引き上げようとしていることは以前から伝わっていました。予算額は現在のほぼ倍にあたる年11兆円規模となるとみられます。実際に足元では、23年度からの5年間で防衛費の総額を43兆円とするよう岸田首相から浜田防衛相、鈴木財務相に指示が出たことが報じられています。現行の中期防衛力整備計画の総額27.47兆円から、5割以上増額する見込みです。これまで別枠だった、海上保安庁の予算(23年度概算要求2,530億円)や、「総合的な防衛体制の強化に資する経費」として、研究開発や公共インフラ、サイバー安全保障なども計上されるとみられます。防衛費の拡充の財源については、広い税目での負担が必要として、今後所得税やたばこ税、金融所得課税の増税が議論されそうです。岸田政権は「資産所得倍増プラン」で投資拡大を促す一方で、金融所得課税の増税を検討するとしており、相矛盾するような政策が期待する効果を削ぐことになる、またそもそもそうした矛盾が受け入れられるか、個人的にはやや疑問ではあります。また、コロナ対策積立金の活用も検討するとしていますが、少々場当たり的な印象もぬぐえません。さらに、財政規律の縛りも意識されるため、安易に国債発行に頼るわけにもいかず、財源確保の問題は今後議論が激化していくものとみられます。
ただ、中長期的にはやはり防衛関連銘柄が折に触れて、注目されそうです。自衛隊向け照明弾、発煙筒などを手掛ける細谷火工(4274)は、防衛向け表示電子機器大手の日本アビオニクス(6946)、子会社の関東航空計器が防衛関連機器を展開する石川製作所(6208)、特装車や防弾、火器などを手掛ける豊和工業(6203)、りゅう弾砲やミサイル発射装置に加え、子会社で先進防衛システムの開発を手掛ける日本製鋼所(5631)、防衛、宇宙分野で実績豊富な三菱電機(6503)、戦闘機のライセンス生産や潜水艦、ミサイル・魚雷の誘導システムなどを手掛けている三菱重工業(7011)、自衛隊航空機や巡視艇などの製造を手掛ける川崎重工業(7012)、航空機エンジン最大手のIHI(7013)、防衛省向け航空機や特装車を生産する新明和工業(7224)、船舶・航空計器大手で防衛省向けの実績を持っている東京計器(7721)などが具体的なところです。株式市場の関心は経済に向きがちですが、多くの市場関係者が思っている以上に日本が置かれている外部環境はなかなかに怖いものがあります。投資家のリスク回避という意味においても、関連ニュースにあまりにも慣れ過ぎて、シグナルを見逃してしまうことは避けたいところです。
(カイカ証券)
※本稿は筆者の個人的な見解であり、カイカ証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。