【検証】市場リスクとそのシグナルⅡ【高まるリスク】

 前回(5月30日)、「【始まったばかり】市場リスクとそのシグナル【高まる市場リスク】」において、VIX指数の期間構造の変化が米国市場の転換点となる可能性について言及した(コメント発信時に指摘したVIXの先安傾向は、本稿執筆時点では解消されて先高傾向に戻っている)。
 今回はその第2弾として、セントルイス連銀(*1)金融ストレス指数をたたき台に、金利市場における信用リスク(信用スプレッド)などと比較・検証の上、米国金融市場におけるリスクの現在地についてお伝えしたい。

<まとめ: 米国株式市場において、今後の高値追いには慎重なアプローチが必要。>

  • リーマンショック収束以降の金融市場が適温で推移してきことは、米国中央銀行も検証済(主に金利面か
    らのアプローチであることに留意)。
  • 債務の観点からすると、現在は国家・企業・個人の各レベルで「不都合な事実(金利上昇期に債務が拡大)」に直面している。
  • 今後、米国株式市場が調整入りするタイミングは、金利動向が重要な鍵を握るだろう。
  • セントルイス連銀金融ストレス指数(またはこれと相関の高いCDS(信用リスク)指数)とNYSE総合指数の推移は、今後注目に値するのではないか?

*1: セントルイス連銀はミズーリ州にある米国連邦準備銀行(中央銀行に相当)のひとつ

確認:リーマンショック収束以降、「適温相場」が続いた 図1の青色はセントルイス連銀金融ストレス指数(*2 以下、STLFS指数)で、灰色はCDS指数(*3 投資適格債5年)の推移。
 リーマンショック収束以降、STLFS指数は0以下で推移しており、過去10年近くの米国金融市場が「適温相場」に置かれていたことをを裏付けてもいる。ただし、右端(丸囲み)では反転しつつあるようにも見える。 
 ちなみに、金融ストレス指数の中身はほぼ金利商品・金利指標で占められている(セントルイス連銀: Notional Economics Trends January 2010 Appendixより)。

*2: STLFS指数

  • セントルイス連銀が開発した指数。
  • 1993年末を基準とし、国債・一般事業債・市中金利・VIX指数など18の要素から構成されている。
  • 「(左軸の)0は通常の金融市場の状況であり、プラス領域は平均的な金融市場ストレスを上回っていること、マイナス領域は平均的な金融市場ストレスを下回っていることを示す。」(セントルイス連銀)

*3: CDS指数

  • 倒産確率などから導かれる債券の信用スプレッドを指数化したもの(この場合は、一定の投資適格企業群の信用リスク(クレジット デフォルト スワップ *4)を、変動利付債(5年物)のスプレッド(保険料、プレミアム)で表現したもの)。
  • 信用スプレッドの拡大は信用状況の悪化(株価の下落要因)、縮小は信用状況の改善(株価の上昇要因)を意味する。
  • STLFS指数は投資適格債の比重がやや高めであるため、両指数(STLFSI指数と投資適格債のCDS指数)は相関(値動きの関連性)が高い。

*4:クレジット デフォルト スワップ

  • 倒産などによって当該発行済債券の元金・利息の支払いが不能になったときに行使する、一種の保険的な
    金融商品。スプレッド(保険料、プレミアム)が小さいほど対象となる企業の安全性は高い。

その「適温相場」にも、変調の兆しが見られる 図2では図1で見たSTLFS指数と、代表的な米銀の信用スプレッド(クレジット デフォルト スワップ5年物)を比較した。
 STLFS指数と米国の代表的な銀行の信用スプレッドの相関(値動きの関連性)は高いことが見て取れる。注目すべきは図1同様、右端の値動き(丸囲み部分)。低位安定から反転しつつあるように見える。何がきっかけだったのだろうか?信用スプレッド(クレジット デフォルト スワップ5年物)の観測を、他の米銀行・米証券会社に拡げて検証したい。

注:代表的な米銀のクレジット デフォルト スワップについては、データの取得可能時期が2007年12月14日以降となっている。

VIXショック後も米銀の信用リスクは上昇基調にある 図3は過去1年の代表的な米銀、及び米証券会社の信用スプレッド(クレジット・デフォルトスワップ 5年物)の推移を示したもの。2018年2月にあったVIXショックの影響が収まって以降も、各行・各社の信用スプレッドは拡大傾向にある。図2で見た信用スプレッドの反転は、米金融機関の趨勢といってもいいようだ。

自行の信用リスクが高まる中、更に融資を拡大する米銀 企業・個人による銀行借り入れは、FRB(中央銀行に相当)による政策金利引き上げ開始(破線)以降も拡大を続けている(図4)。米銀は金利が上昇局面入りしてからも資産の拡大を続けているわけだ。
 資産の拡大には貸倒れリスクが伴う。銀行は一定のストレスに耐えうるリスク管理を強化してきたが、資産の拡大と引き換えに自行の信用リスクが悪化する(*5)仕組みは基本的に変わらない。信用リスクの増大は図3でみたように、各行のクレジット デフォルト スワップのスプレッド拡大を招いている。これは市場による評価の悪化とも言い換えられる。

*5:資産の拡大と引き換えに自行の信用リスクが悪化する

  • クレジット デフォルト スワップは、信用リスクを抑える(ヘッジする)ために購入される。その場合、クレジット デフォルト スワップを提供した先へ信用リスクを転嫁したことになる。(中小企業はなかなか取引されず、ヘッジが難しい)

依然として旺盛な米国企業の資金需要 企業の資金需要は間接金融である銀行借入だけではなく、直接金融である債券市場においても依然、旺盛なようだ(図5)。調達した資金の多くは研究・開発や設備投資に向かわず、自社株買いに向かっている企業も多いようだ。(5月15日【相場反転?】米国株式市場はまだ「買い」なのか Ⅰ【大逆流?】

旺盛な資金需要に対し、悪化する発行条件 非金融債の発行額は直近約1年に目を移すと、様相がやや異なる(図6)。2017年12月の落ち込み(多くの企業の年度末)は別としても、今年1月~4月までの発行総額は前年同期に比べ、14%ほど減少している。これは資金需要の減退というよりも、金利の上昇や発行条件の悪化(市場の信用リスク評価の悪化)で、社債の発行を見送るケースが発生しているためだ。

不動産関連の金利上昇はスタートが早かった モーゲージ債(*6 不動産担保証券)の利回り推移も上昇基調にある。指数ではなく金利だけに、本稿で紹介したどの指数よりも早いタイミングで上昇に転じている(図7 青色のボカシ部分)。FRB(米国の中央銀行に相当)による利上げの影響が、銀行等ローンの貸し手を通じて、ほぼタイムラグなしに波及しているためだ。
 今後は住宅価格の高騰(借入金額の増加)と金利上昇の同時進行が、新たな購入意欲を抑制する方向に働くのかもしれない。将来的には、景気後退期に延滞債権が急増し、負の連鎖が更に拡大する可能性も懸念される。

 上記と表裏をなす家計の債務が過去最高を更新したことは、当社投資情報室長・小野田 慎のコラムに詳しい。(5月25日 2018年第1四半期の米国家計債務が過去最高を更新

*6:モーゲージ債(不動産担保証券)
個別の不動産担保ローン(以下、ローン)から構成される債券。
その仕組みは、

  • 政府系機関(エージェンシーと呼ばれる3社)などが、ローンの貸付側(銀行やノンバンク)から当該ローンを購入する。
  • エージェンシー等は、買い取ったローンを一つの債権の束にまとめ、これを証券化(債券として発行)する。(発行する債券には、買い取ったローンの金利が反映される)
  • エージェンシー(政府系機関)が組成したモーゲージ債は米国債に準じた格付を有し、機関投資家の人気が高い。

好況期の減税が追い討ちとなった財政収支の今後 中間選挙対策とも言われる米国の減税措置が、今後の米国財政赤字を急速に悪化へと向かわせつつある。ここもとの金利上昇はこれが主因の一つともされている。また、社会保障関連では一部の労災や高齢者向け医療制度(メディケア)用の基金が、この10年以内に枯渇するとも報告されている。(米国議会予算局2018年4月推計)

 FRB(米国の中央銀行に相当)が市場モニタリングにも活用しているSTLFSI指数(セントルイス連銀ストレス指数)。その構成要素の多くは金利商品、又は金利指標であることは既に述べ(本稿冒頭近く、「確認:リーマンショック収束以降、「適温相場」が続いた」)、その検証も行った。米国の金利動向が、米国株式市場に与える影響は小さくないようだ。その上での結論は下記の通り;

 例えば拡大を続ける銀行融資において、想定外のストレスがその貸出先へ広汎に伝播した場合、各銀行は膨張した資産を縮小せざるを得ない。

 想定外のストレスとは、例えば規模の小さな債務国が元利払いを停止させるようなケースが上げられる。こうなると、各国の金融市場に影響が波及する可能性は高い。だからこそIMF(国際通貨基金)は日本円にして5兆円を越えるアルゼンチンの支援を応諾したのだと思われる。

 借入というレバレッジ(テコ)を活用して拡張を続けた米国経済は、金融機関の信用スプレッド拡大が示すように(本稿図2、図3)、臨界点に近づいているのではないかと思われる。あくまでも金利市場からの話ではある。ただし、そのような状況下ではたとえ小さなストレスであっても、これまでの蓄積が一気に逆流する可能性は高いかもしれない。国家・企業・個人ともに、その条件が整いつつあるからだ。

 我が国でも1990年代終盤に相次ぐ大手金融機関の破綻や、それに続く金融機関による「貸し剥がし」を経験している。まさに負の連鎖だった。

 世界各国が金利情勢に対して極めて神経質である最中に、唯一、米国とその同盟国だけが無頓着だとも言える。実際、バーナンキ元FRB(米国の中央銀行に相当)議長は先週、「減税や歳出拡大でFRBの仕事全般がやりにくくなる」と発言している。流動性供給から縮小へと金融政策を転換させた矢先に、政府がこれとは真逆の政策を連発しているためだ。これが現在の金融市場におけるリスクの源泉かと思われる。

(eワラント証券 投資情報室 チーフ・ストラテジスト 塚本 誠)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。