かのうちあやこの『自民総裁選』レポート

9月は過去を見るとあまり成績が良くない。1993年から見ると日経平均株価は12勝16敗で12カ月のうち8月とともに最下位である。NYダウも14勝14敗で下から2番目だ。

だが、その9月の上旬、日本株は驚く上昇を見せている。

菅総理の自民党総裁選不出馬がひとつのきっかけになったといわれている。就任当時内閣支持率は74%と歴代3位の高さだったのに、この春以降は低下が目立ち、7月には「危険水域」と言われる30%割れとなった。

チャートを描くとこの支持率と日経平均株価には連動性があったようにも見える。日経平均株価は8月20日には年初来安値に沈んだ。

しかし、二階幹事長交代の話が出た8月末、11カ月も続いた「月末安」を跳ね返して続伸。この前日からの8日続伸で2,500円超も上昇したのだ。

日本でもようやくワクチン接種が進展したことやグローバルに見れば何より米金融政策への懸念後退など上昇の要因は重なっているが、投資家のコロナ対策を含む政策への関心の高さがうかがえる。

余談だが、筆者の後期高齢者である母と叔母が「誰が自民党総裁ならいいか」と電話で話したそうだ。「あっちのメガネのほうは・・・、げじげじ眉毛のほうは・・・」という程度ではあるが、彼女らが政治の話をするなんてめったにない。サンプル1だが、これは国民の関心もかなり高いのではないだろうかと思ってしまった。米国大統領選挙のように投票権がないのが残念だ。

もちろん国民が広く投票する衆院選がマーケットにとっても本番であるが、菅総理就任時も、その政策によって「デジタル庁関連」「不妊治療関連」「遠隔医療関連」「通信費引き下げ関連」などなどテーマ株物色が華やかだったことを思えば、各候補者の政策は見ておきたい。

自民党総裁選は9月17日に告示、29日に投開票が行われる予定で、9月11日現在出馬が明らかになっているのは岸田文雄前政調会長、河野太郎行革相、高市早苗前総務相の3名だ。

因みに共同通信社が4~5日に実施した世論調査では、「次の首相に誰がふさわしいか」で河野氏が31.9%でトップ、2位は石破茂元幹事長で26.6%、岸田氏が18.8%で3位だった。以下、野田聖子幹事長代行が4.4%、高市氏が4.0%、茂木敏充外相が1.2%となっている。

いち早く立候補を表明した岸田氏はコロナ対策「岸田4本柱」を掲げた。医療難民ゼロ、ステイホーム可能な経済対策、電子ワクチン接種証明(ワクチンパスポート)活用・検査の無料化拡充、感染症有事対応の抜本的強化である。公衆衛生上の危機発生時に国・地方を通じた強い指揮権限を有する「健康危機管理庁」を設置するとも表明。これは屋上屋を架すとの批判もあるが、「野戦病院」的な臨時の施設をつくる案などには一般の反応が良い。経済政策については、当面は大胆な金融政策と機動的な財政政策を維持するとしているが、もともとは財政再建論者である。中間層への配分を重視する「令和版所得倍増計画」を掲げる。これには金融所得課税の見直し、教育費・住居費の支援などが盛り込まれている。経済安保(海外への技術流出防止)にも取り組むという。

すると、技術流出防止でサイバーセキュリティ関連が注目されるか。半導体、AI関連も関係がありそう。また、高齢者活用で人材関連も注目されそうだ。

河野氏は、「小さな政府・大きな年金」を掲げる。「脱原発」が持論だが、「産業界も安心できる現実的なエネルギー政策を進める」として当面は安全な原発の稼働は容認するという。しかし、再生エネルギー関連にはすでに注目が集まっている。行革大臣として成果をあげた「脱ハンコ・電子認証」は引き続きテーマになりそう。改革イメージの強さと英語が達者なことで海外勢には人気があると元外資系投資銀行の方々に聞いたが実際どうか。

高市氏は新たな経済政策として「サナエノミクス」を掲げた。金融緩和・緊急時の機動的な財政出動・大胆な危機管理投資・成長投資を「3本の矢」として取り組むというから「アベノミクス」継承ということだろう。NHK改革にも言及しているが、総務大臣当時、政治的『公平』が疑われる放送が行われたと判断した場合、行政指導、電波停止を命じる可能性があると発言していた。市場関係者によれば、原発推進で電力各社が関連銘柄。災害対策の建設株、介護関連なども注目だという。

ところで、9月20日に総選挙が予定されているカナダ、9月26日に連邦議会選挙が予定されているドイツも政局が流動化している。振り返れば、トランプ前大統領はコロナ禍中で再選に失敗している。パンデミックは世界中で政治への不満を高めているのかもしれない。

岸田氏は「小泉内閣以降の新自由主義的政策は、我が国の経済に成長をもたらす一方で、持てる者と持たざる者の格差が広がりました。成長だけでは人は幸せになれません。成長の果実が適切に分配されることが大事です」と述べた。安倍政権の政調会長でもあっただけにかなりの政策転換ともとれる。

この「分配」への傾斜は世界的な流れだ。米バイデン大統領の「米国救済計画案」は所得再配分を目指すものと言え、欧州でも行き過ぎた資本主義への批判が高まっている。中国では豊かになれる者から豊かになる「先富論」が否定され、習近平氏は「共同富裕」を語る。

コロナによって変容した、変容していく時代に、それ以前から底流で広がっていた格差への不満を抱え、どんな方向を目指すのか。具体的には何ができるのか。

今回の自民党総裁選、衆院選は実は相当大きな選択になるのかもしれない。


( フリーアナウンサー/証券アナリスト かのうち あやこ )

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。