しばらく前のNHK朝の連続ドラマ『あさが来た』で流行った「びっくりぽん!」。昨年2016年の金融市場は日銀のマイナス金利、英国のEU離脱、米国の大統領選挙・・・と、大方の予想を裏切る「びっくりぽん!」の連発だった。なぜ予想外のことが起きるのか?それはメディアや専門家の予想が狭い範囲に集中しすぎる傾向があるために、想定の範囲外のイベントが起きる確率のほうが高いからだ。とりわけ予想する人と実際に行動する人が違う場合には予想がはずれやすい。
「有識者」の見解や大手メディアの論調は必ずしも一般庶民の感覚と同じではない。昨今のポピュリズム政治のように、両者のあいだに感覚のズレがあると「びっくりぽん!」が起きやすい。投票結果など政治的事件に限らず、経済予測や株価予想でも原理は同じだ。予想をする「市場関係者」と呼ばれる人たちは、自ら巨額の資金を動かして投資行動をする人とは必ずしも同じではないからだ。
では2017年の日経平均株価の「びっくりぽん」確率を考えてみよう。『日経ヴェリタス』1月1日号には毎年恒例の相場予想アンケートの結果が掲載されていた。回答者69人は証券会社や運用機関の「市場関係者」つまり第一線のプロの方々だ。日経平均株価の2017年中の高値予想の平均は21,309(昨年末比+11.5%)、安値予想の平均は17,115.9(同、-10.5%)。予想のばらつき具合(標準偏差)は高値も安値も1,400円程度で、プロの方々の予想は比較的狭い範囲に集中しがちな自信過剰バイアスがあり、これがコンセンサスとなる。
専門家の予想が狭い範囲に集中しがちな理由の一つは、彼らが同じような情報メディア――例えばロイター、ブルーンバーグ、QUICKなど情報端末や日本経済新聞やWall Street Journalなど経済紙――を共有していること。もう一つは、メディアや専門家同士のネットワークをつうじて事実だけでなく「意見」も共有し、同業他社の専門家たちの意見からあまりかけ離れた予想を避ける傾向があることだ。これを行動経済学ではハーディング(群集行動)という。要するに「長い者には巻かれよ」というわけだ。
予想が狭い範囲に集中していると実際には予想の範囲外のことが起きて、予想がハズレる確率は高まる。ちなみに1949年末から2016年末までの67年間では、日経平均株価の年間騰落率は平均+11.2%で標準偏差は27.8%もある。リターンの発生確率が正規分布と仮定して試算すると、2017年末の日経平均株価がアンケート結果の高値平均と安値平均の範囲に収まる確率は約40%にすぎない。高値予想よりさらに高いポジティブ・サプライズの発生確率は42%、安値予想よりさらに低いネガティブ・サプライズの確率は18%だ。
専門家のコンセンサスにもとづく株価の予想範囲は、当たるよりもハズレる可能性が高いといえる。なぜなら客観的な確率分布の範囲は、自信過剰バイアスとハーディングから生まれる主観的な確率分布の範囲よりもずっと広いからである。
(一橋大学大学院国際企業戦略研究科 「行動経済学」担当非常勤講師 山口 勝業)
※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。