“アルケゴス事案”が織り込まれるまで細心の注意が要る

予期せぬことで個別銘柄の株価が急落

前々回記事「急な米テーパリング(量的緩和縮小)懸念は消失している」(1月29日 17:00公開)、前回記事「米金利と日銀ETF買いへの“懸念”は短期間で織り込まれる公算」(2月26日 16:10公開)と立て続けに、その時に拡がった「米テーパリング懸念」と「日銀ETF買い懸念」について大きな問題ではないという見方をしていた。首都圏1都3県に発出されていた緊急事態宣言の解除(再延長後3月21日に解除)を先取りし、前回記事で「経済活動再開で注目される業種の銘柄」として取り上げた銘柄は以下の動きだった。

(翌営業日3月1日始値→その後の高値→3月29日終値)
JR東日本(9020)         7,930円→8,626円(3/18)→8,152円
野村ホールディングス(8604)   622.2円→721円(3/26)→603円
第一生命ホールディングス(8750) 1,870円→2,047.5円(3/19)→1,969.5円
ホンダ(7267)          2,971円→3,475円(3/19)→3,323円
オリエンタルランド(4661)    17,980円→18,245円(3/2)→17,360円

3月19日の日銀金融政策決定会合で、ETF買い入れについて「年間上限6兆円文言削除」、「買い入れ対象はTOPIX型ETFのみ(日経平均型除外)」とされたことで主に日経平均株価への不安が生じ、ファーストリテイリング(9983)を中心とする日経平均寄与度が高い銘柄が売られ、3月19日-3月24日の4営業日で約1,800円も日経平均株価が下落し、3月29日終値(29,384円52銭)時点では3月1日始値(29,419円45銭)を少し下回る水準だということを考えると、底堅い動きといえよう。ただひとつ「野村ホールディングス(8604)」を除いて…。

同株は3月26日終値720.7円→翌営業日3月29日終値603円と、STOP安にこそならなかったものの、16.3%も急落した。その要因となった「(同社の)米子会社での巨額損失」が株式市場に新たな懸念をもたらしている。


全貌が明らかになるまで需給面に不安が残る公算

野村ホールディングスは29日午前、米子会社で顧客との取引において、多額の損害が生じる可能性のある事象が発生したと開示した。当該顧客に対する請求額は26日時点での市場価格に基づく試算で約20億ドル(約2,200億円)ということだ。
(注)業績に与える影響が判明次第、速やかに公表するとしている。また、ポジションの処理や市場価格の変動などにより、金額は今後増減する可能性があるとした。

金融系報道機関が匿名を条件とした複数の関係者からの情報として報じたところによると、今回の野村ホールディングスの損害は、米株式市場で26日に実行された約200億ドル(約2兆2,000億円)規模と推定される巨額の株式ブロック取引(相対取引)に関連している可能性があり、背後には、2000年に閉鎖されたタイガー・マネジメント(旗艦ファンド「タイガーファンド」)の元トレーダー、ビル・ファン氏の財産を管理・運営するファミリーオフィスの「アルケゴス・キャピタル・マネジメント」が取引銀行から200億ドル相当の株式売却を強いられたことがあるという。

そこまでの情報であれば、ビル・ファン氏と野村ホールディングスの二者間の問題と判断することもできるが、「欧米の大手投資銀行にも損失が生じる公算」と付け加えられたことで、にわかにプロ個人投資家を源とする市場の混乱が懸念されることになった。今回の事案によって金融機関が資産の売却を急ぎ、市場流動性が一方向(売り)に傾くのではという過大な見方も聞かれた。

事の真相はまだ明らかになっていないものの、ファン氏が高レバレッジ株式取引を行い、裏目に出て大きな損失が生じ、デフォルト(債務不履行)となったことは間違いない。野村ホールディングスなど金融機関はポジション解消の動きを進めており、それに伴う損失が発生したという構図だ。

他方、ファン氏については2008年と2009年に、運営していたファンドがインサイダー取引によって1,600万ドル(約17億6,000万円)の不正利益を得ていたことを認めた過去があるとされている。過去に有罪を認めた人物と取引をしていたことについて、金融機関のコンプライアンスやガバナンスについて当局が関心を示し、ともすれば金融規制強化につながることも危惧されるところだ。「まさか」の事態を投資家が想定し、株式市場の需給不安を長引かせる可能性も捨てきれない。もちろん杞憂に終わるかもしれないが、まだはっきりしたことがわからないため、気持ち悪さが残る。

東京市場においては、日銀ETF買いの対象となり、下支え効果も期待できる「TOPIX(東証株価指数)構成比が高い銘柄」を中心にするのがよさそうだ。なかでも、バリューセクター(金融を除く)、内需セクター、ディフェンシブセクター、国際優良株とされる銘柄が相対的に底堅い動きを示すかもしれない。


トヨタ自動車(7203・東証1部)


キーエンス(6861・東証1部)


ソニー(6758・東証1部)


リクルートホールディングス(6098・東証1部)


武田薬品工業(4502・東証1部)


NTT(9432・東証1部)


(株式ジャーナリスト 天海 源一郎)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。