イラン情勢緊迫化と2003年のイラク戦争の振り返り

中東のホルムズ海峡付近でのタンカー襲撃事件やイランによる米国の無人偵察機の撃墜などを巡り、米国とイランの間に緊張が走っています。トランプ米大統領は軍事行動を取ることについて慎重な姿勢をみせていますが、原油先物相場が上昇するなど、金融市場には影響が出てきています。

万が一の事態に備えて、過去の事例を確認しておくことは有益かもしれません。米国が地上軍を派遣した直近の戦争としては2003年のイラク戦争が挙げられます。本稿ではイラク戦争前後数年の株式市場等について振り返ります。

イラク戦争前後の情勢

当時の米国の経済状況は、1990年代の株価上昇から2000年に株価が下落に転じ、2001年ごろになると失業率が上昇するなど実体経済においても景気後退を感じ始めたころです。

そんな中2001年9月11日に米国同時多発テロが生じ、アフガニスタンを支配するタリバーンがテロの首謀者とされるウサマ・ビンラディンの引渡しを拒否したことを受け、同年10月7日、当時の米国大統領、ジョージ・W・ブッシュ大統領は英国とともにアフガニスタンに対する空爆を開始しました。

2001年12月7日にはアフガニスタン紛争は区切りを迎えましたが、翌年の2002年1月29日にブッシュ大統領が議会向けの一般教書演説において北朝鮮、イラン、イラクの三カ国を「悪の枢軸」と非難し、当時フセイン大統領政権下にあったイラクに対する戦争の開戦が意識されるようになりました。

2003年3月17日、米国は先制攻撃としてイラクに空爆を行い、ブッシュ大統領はイラクに対して最後通告を行いました。そして19日には米英などが「イラクの自由作戦」と称してイラクへの侵攻を開始しました。

2003年5月1日、ブッシュ大統領は早々に大規模戦闘終結宣言を出しましたが、アフガニスタン同様、イラクでの戦闘はフセイン政権を崩壊させた後も断続的に発生しました。イラクでは治安の悪化が深刻化し、新しくできた政権も不安定な状態でした。

株価の動向

図1は日経平均株価、ダウ・ジョーンズ工業株価平均、米ドル対円相場の推移を2002年末から2004年末まで見たものです。

株式市場は9・11テロで大きく下落しましたが、2002年の前半までは反発トレンドが続きました。これは米国において住宅市況の活況が続いたことや、自動車メーカーがテロで落ち込んだ消費マインドを押し上げるために積極的な販売奨励策をとったためと考えられます。

しかし、株価は2002年後半から失速しています。背景として、2001年12月2日に巨額の不正会計問題を起こしたエネルギー大手のエンロンが破綻したこと、2002年7月に長距離通信大手ワールドコムが粉飾決算の発覚をきっかけに破綻したことなどで、投資家の間で企業会計に対する不信感がありました。失業率の上昇(2001年末5.7%→2002年末6.0%)も投資家マインドを冷やしたと考えられます。

その後、ダウ・ジョーンズ工業株価平均は米英などがイラク侵攻を始めた2003年3月が底となりました。侵攻前から戦闘は数カ月の短期決戦となることが予想されており、戦闘により将来のテロ発生が抑止されることへの期待や、防衛予算の拡大によるGDP押し上げ期待などがありました。

さらにブッシュ大統領は2003年1月に減税政策として2001年に決定した減税措置の前倒しと配当・キャピタルゲイン税率の引き下げなど、減税策を明らかにしたことも株価上昇の追い風となったものと考えられます。

金・原油相場の動き

有事で買われる資産といえば金です。また、中東情勢と関連が強いのは原油相場です。この二つの相場についても見てみます。

図2は金先物とWTI原油相場の推移です。金相場は2000年末から2004年末は250ドルから450ドルの価格帯となっていました。

当時の金相場は米国で発生した同時多発テロで一時的に急騰しましたがその後は落ち着き、ブッシュ大統領の「悪の枢軸」発言で開戦が意識されると上昇局面に入りました。2003年に入ってからは調整局面に入りましたが、2003年5月の大規模戦闘終結宣言にも関わらずイラク情勢が混沌としていたことから金相場は再び上昇に転じています。

原油相場もブッシュ大統領の「悪の枢軸」発言をきっかけに中東情勢の緊迫化が意識されて上昇局面に入りましたが、戦闘開始による供給減少を見込んだ買いが進んだ反動か、2003年3月の開戦で急落しています。その後は景気回復局面に合わせて需要が回復したことなどを受けて上昇相場に転じています。

ところで、現在の1オンス当たりの金相場は1,400ドル前後であり、当時と比べてずいぶん値上がりしました。金は世界の物価指標と見ることもできますので、金融緩和によるインフレが進んでいたとも言えそうです。

トランプ大統領が戦争を始めたら?

2019年6月21日、トランプ大統領は米国によるイラン攻撃を承認後に撤回したと報道されました。米国の大統領補佐官のボルトン氏は強硬派で知られ、2003年のイラク戦争でも開戦を主張した人物と知られています。米国とイランの開戦の可能性は高まっているものと思われます。

2003年のイラク戦争は、開戦前から戦争は短期間で収束すると見られており、開戦によって不透明感が払しょくされて株高になったと考えられます。この点からすると、仮に米国がイランに対して開戦しても株安要因にはならないかもしれず、米国本土外で行われる戦争であればなおさら株価に大きなマイナス材料にはならないのでは、と思われます。

むしろ企業のファンダメンタルズや景気サイクルを観察しておくことの方が有効と思われます。特に近年は各国中央銀行による量的緩和の影響が株価に大きく影響するものと考えられ、中央銀行の政策には引き続き注意が必要でしょう。

金相場も原油相場も、イラン情勢の不確実性が払しょくされるまで上昇トレンドを維持するかもしれません。金相場は開戦ともなれば共に一旦利益確定の売りに押されるでしょうが、金相場は株式同様に各国中央銀行による量的緩和が続くようなら長期的な上昇トレンドになるかもしれませんし、原油相場は世界の景気動向と主要産油国の生産動向次第となるでしょう。


(eワラント証券 投資情報室)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。