危ういバランス:トランプ減税で活況の米国ジャンク債市場

 米国のジャンク債は、一見すると非常に良好な投資対象のように見えます(図1 朱線)。市場の代表的な指標によると、期間5年のジャンク債は同期間の米国債に比べ、3%強高い利回りとなっています。米国のジャンク債は高い利回りと安定した価格推移により、更にジャンク債への資金集中につながる好循環となっているようです。
 ジャンク(がらくた)債の語源は、その信用度が投資適格を下回るため倒産確率が高い(借入依存度が高いなどが理由)ことに由来していますが、そのような危険な市場になぜ投資資金が集まるのでしょうか?

トランプ政権による大型減税が米国ジャンク債市場を支える結果となった

 年初からこれまで、米国企業の決算は好調を維持し、米国株価指数も高値を更新してきました。これを大きく下支えしたのが今年度(2017年10月~2018年9月)から始まった、10年間で1.5兆米ドル(約167兆円)規模に及ぶ大型の減税です(法人税率は35%から21%へ大幅に減少)。
 このトランプ減税は、多くの民間企業の業績をかさ上げしました。これが米国株上昇の原動力の一つであったとも思われます。
 この好業績を背景に、特に借入依存度の高い企業は、FRB(米国の中央銀行に相当)の利上げモードへの移行も影響し、既存借入の返済・財務(バランスシート)の改善をせっせと進めているようです。この結果は今年(カレンダー年)のジャンク債発行額が前年同期比(1-8月期)で約25%減少しているという結果に現れています(図2)。

永遠には振り続けられない打ち出の小槌

 減税によって活況を呈するジャンク債市場。その経路を、上述の借入依存度が高い=信用度が低い企業を例にとって整理してみます。

① 減税(だけではないが)によって獲得した増益分を既存借入の返済に充て、利払いを減少させる。

② 利払いの減少は増益要因でもあり、業績の向上につながる。

③ 借入額の減少=負債額の減少であり、バランスシート(貸借対照表)の改善につながる。

④ バランスシートの改善と増収は、貸し手側からの信用評価に寄与し、新規借入可能枠の拡大にもつながる。もちろん、株価の上昇にもつながる。

⑤ 新規借入時には、改善した信用度を利用して、好条件での借入ができる可能性につながる。

 このように良好なクレジット・サイクル(借入枠、または借入額が増減する循環)の拡大は、通常の景気拡大期には多く現れる現象です。ただし、米国は依然として景気拡大期にあるので正常な現象とは言えなくはないですが、今回の場合は民間債務が減少しているのに対し、政府債務が積みあがっている点に問題があると思われます。なぜなら、減税を通じて民間債務を政府債務へ付け替えたとも言い換えられるためです。

 ただし、このような資金の流れは徐々に減少していくものと思われます。例えば、在外拠点による本国への資金還流を促す減税は2018年度一回きりです。2018年10月から始まる新年度(2019年度)ではこの効果が剥落することから、民間企業に対する増益効果もその分剥落することになります。
 また、こうした税金による、いわゆる「ヘリコプター・マネー」政策には持続性の観点から疑問が残ります。その理由の一つとして、急激に拡大する米国の政府債務の存在があります。通常は財政統治の観点から、無謀な政府債務の膨張には歯止めがかけられる仕組みになっています(議会の承認が必要となります。折に触れて政府機関の停止が騒がれるのも、これが原因です)。

米国株のピークは近いかもしれない

 直近、いくつかの新興国では、巨額の政府債務の膨張を伴う政策によって、自国経済が危機的な状況に追い込まれています。米国とて、こうした状況を見る限り例外ではないでしょう。(債務の膨張が抱える問題点については、近日中に「長期化が見込まれる米国政府債務の深刻な現状」にて触れたいと思います)。
 結果はどうあれ、中間選挙(11月6日)が一区切りした時、国民の歓心を買うことに腐心してきたトランプ政権も、上述のような財政の壁に改めて直面するのだと思われます。米国の金融市場は意外に脆弱で、これまでの強気相場から調整期入りするタイミングは近いのかもしれません。

(eワラント証券 投資情報室 チーフ・ストラテジスト 塚本 誠)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。