ニッポン株式会社の株価形成は意外と合理的

 日経平均株価が26年ぶりの高値になったことで「過熱ぎみではないか?バブルではないか?」と懸念する声も一部にあるが、こうした懐疑的な声があるのは市場が健全な証拠ともいえる。筆者の結論を先取りすれば、いま(2017年12月)はまだバブルといえる状態ではない。2017年12月中旬時点での株価水準は、現在から1~2年先の企業業績の予想をP/Eレシオ16.7倍(益回り6%)で織り込んでおり、ファンダメンタルズを反映した概ね妥当な水準といえよう。

 株価の水準を評価するには、たんに過去の株価チャートの動きだけからは判断できない。またP/EレシオやP/Bレシオなど単純な株価尺度だけでも足りないし、ファンダメンタルズを考慮するといってもROEだけでもダメだ。巷の経済誌の記事やストラテジストのコメントではこうしたた単純なデータだけで議論する傾向があるが、それでは株価形成の一つの側面しか見ていないことになる。より良い判断を下すためには、これらを総合した理論的な分析フレームワークが必要だ。

 現在もっとも一般的な株価評価モデルは「残余利益モデル」である。将来t期の残余利益とは、企業がt年度に稼ぐ税引き後当期利益からそのために利用する株式資本の費用を差し引いた残りの利潤をさす。この各年度の残余利益を資本コストで割り引いた現在価値を来期(t=1)から将来(t=∞)まで足し挙げたものが、将来の残余利益の現在価値だ。現在手元の株式資本の簿価に、この将来の残余利益の現在価値を足した合計が、現時点での株価の理論価値となる。 ただし無限の将来までの利益予想は神様でもないかぎり不可能だ。アナリストレポートや『会社四季報』で見られるのは、せいぜい来期か2年先くらいまでの予想にすぎない。そこで予想値を来期予想(t=1)に限ると、上記の理論式はよりシンプルな次のような式[1]になる。 ここで現在価値PVEを実際の株価Pとし、両辺を現在の自己資本簿価B0で割ると式[2]に変形できる。 式[2]から明らかなように、左辺のP/Bレシオと右辺第2項の残余利益率(ROE-rE)は正の関係にある。したがってP/Bの逆数であるB/Pレシオは、当然(ROE-rE)とは負の関係にある。

 要するに、予想ベースの残余利益で儲かっている企業はそれを生み出す株式資本の価値(P/Bレシオ)が高い、裏返せば儲かっている企業の株が割安という状態はふつうありえない。成長株と割安株の間にはトレードオフがあるのである。このトレードオフ関係が株価形成の基本形で、時系列でも銘柄間でも概ね成り立っているのが正常な姿だ。

 では実際のデータで確認してみよう。【図表1】は資本コストの代理変数として益回り(E/P)を用いて、バブル崩壊後の90年代から今日までのTOPIXに上記の式をあてはめ、横軸に残余利益(日経新聞の月末時点での来期予想ベース)、縦軸にB/Pレシオ(同、実績ベース)を、それぞれ過去12ヶ月移動平均で表示した散布図だ。

 株式市場がバブル気味のときは右下の領域に、お先真っ暗のときは左上の領域にくる。01年から03年にかけて断絶があるが、株価はこの曲線にそって動いてきた。最近の2017年10月末の点は横軸1.89%、縦軸0.764で、過去28年間の歴史的な足取りのなかに位置づけてみると、中間的な領域にあり、バブル的状態にはないことがわかる。

【図表1】

(一橋大学大学院国際企業戦略研究科 非常勤講師 山口 勝業 博士(経済学)/CFA/CMA )

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。