バリュエーションが測れない時間帯が始まる

先月の寄稿で、リーマンショック時との市場動揺度の比較を行ったが、その際に掲載したVIX可視化指数(直近25日間のVIX値の累計値に対する、直近5日間、10日間の累計値の関係から市場の急激な動揺度を測ったもの)のグラフを再掲する。これを見ると、かつてないスピードで急激に動揺度が収まり、過去の最高値にまで達していることが分かる。


このVIX可視化指数は、これまでは、大きく下落した後の反発局面において、「買い」(=指数上昇)を示唆してきたが、逆の状態が必ずしも、「売り」(=指数下落)を示唆するものではなかった。しかし、現在のような天井レベルに達した後は、指数が一気に上昇できずに、横バイや揉み合い状態に入ることが多かったことが見てとれる。

今回のような戻りがテクニカル的にいったんこれ以上上値を追うには厳しい水準にまできたことを表しているものが、日経平均においても幾つも出てきた。

これは、日経平均の値と、その5日、25日、75日の移動平均乖離率の合計(の5日移動平均値)が、プラス5%となる水準(A)、マイナス10%となる水準(B)、マイナス15%となる水準(C)の関係を表したものだが、これまで日経平均は、下落局面において、大きな下げであればC、それ以外はBで切り返してきたことが分かる。

そして、現在は、B、Cを下回ったレベルから切り返し、ついにはAの水準にタッチしようとしている。このAを超えて上昇した局面を左から丸で囲ったが、いずれの場合も、その後、指数は下落に転じている。そのため、今回もかなりテクニカル的には上値を追う余地は限られてきたと言える。

リーマンショック(2008年9月)のあと、最終的に世界的な株式指数が安値を記録したのは翌年3月のことであった。また、上海ショック(2015年8月)の際の安値も翌年1月であり、大きな下げの後には、二番底を探る動きが起きた。そして、その後にPERなどのバリュエーションの見直しが行われ、相場は底を離れる動きとなったのだが、今回はそのバリュエーションを測ることが、今後、困難になることを予想しなくてはならないだろう。

その理由というのは、東証が今回、上場会社に対して、2つの一斉通達を出したということが挙げられる。
これまで決算期日から45日以内に決算を発表することを要請してきたものの、これに関わらず、各社の状況に応じて発表することを認め、尚且つ、2020年度の業績見込みについても、見込みの算出が困難な場合は、「未定」とすることを許容する姿勢を示したのである。

この見込みの非開示については、過去に前例がある。
2011年(3月)に東日本大震災が起きた後の決算発表において、電力の供給不足などによって業績の見通しが立たなかった企業が2011年度の業績見込みを発表しなかったのだ。しかし、今回は、そのときに比べて、広範囲な業種において「業績見込みの開示なし」となる事態が想定される。まさしく“未曾有の出来事”である。

無論、各企業ともに、現在の状況が落ち着き、業績が見通せるようになった段階で見込みを開示することとなろうが、新型コロナウイルスの収束時期とは関係なく、開示時期は、早くても上期決算(第2四半期決算)からと考えておいた方が無難であろう。つまり、時期としては11月中旬以降ということになる。
それまでは、「PER」という個別銘柄選別及び世界的な株式指数の相対評価において、非常に重要視されるバリュエーション数値は機能しないこととなるであろう。


(スプリングキャピタル株式会社 代表取締役社長 チーフ・アナリスト 井上 哲男)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。