ビットコインを巡る中国のジレンマ

 先週、JPモルガン・チェースのCEOジェイミー・ダイモン氏が米CNBC主宰のカンファレンスで、仮想通貨について「実体がなく、チューリップ・バブルよりも悪質」、「娘がビットコインを買ったが、私はアドバイスをしていない。彼女は天才だと思う」(皮肉)、「JPモルガンでビットコインを取引しているトレーダーが居たらクビにする」等々語ったことが引き金となり、ビットコインは再度急落したが、分裂騒動で大きなボラティリティを見せたビットコインが今月に入って再度不安定な動きとなったのは、中国の金融当局が「企業や個人が独自に仮想通貨を発行して資金調達するICO(イニシャル・コイン・オファリング)を全面的に禁止する」と発表したことがきっかけ。

 日本でもマザーズ市場に上場するメタップスなどは「韓国子会社が仮想通貨の取引所を開設する」との材料で買われてきたため大きく株価が下落したが、その韓国自体も中国と同様の姿勢を示している。また、先ごろ100億円近いとも言われる費用を使ってビットコインの取引を承認するマイニング(採掘)事業に参入するとGMOインターネットが発表したが、これもやや“冷や水”を浴びせられた形。これまで、半導体チップ技術で日本は中国に勝るものの、圧倒的な電気代がかかる同事業を日本で行うことは困難とされていただけに、世界的に日本企業の参入表明は関連業界で注目されたが、仕切り直しとなる可能性がある。

 10分もあれば通貨=トークンのスキームを造れてしまうICO。
 イーサリアムのICOプロジェクトで多額の資金が集まった際に、IT技術さえあれば“濡れ手で粟”の成金になれるという評判が広がり、ICOブームに拍車がかかったことは否定できない。“大口ICO”と言われる資金調達も既に50例を超えているが、その半分以上の事例で、語っていたビジネスモデルに則した技術やサービスが実在していないという。ICOに参加した投資家はその企業が事業であげた利益を配当という形でもらう権利は無く、ただ、発行されたその「トークン」が値上がりするのを待つだけ。中国がICOを禁止する理由、JPモルガン・チェースのダイモンCEOが「詐欺だ」と言う理由がここにある。

 現在、中国政府は国内における(ビットコインなどの)仮想通貨の取引所閉鎖を計画していると報じられているが、中国がここまで神経を尖らせるのには、2つの理由が考えられる。

 1つは無論、ICOや仮想通貨により金融秩序が揺らぐことである。
 中国ではそもそも外貨取引が厳しく制限されており、仮想通貨が違法な資金洗浄(マネーロンダリング)や資金の海外流出につながる、いわゆる「規制の抜け道」の1つとなっている実態を当局は認識している。このように、「仮想通貨」の「仮想相手通貨」として「人民元」はうってつけなのである。

 このことが結果的に人民元相場に影響をおよぼしているというのが2つめの理由だ。
 中国は“自らが蒔いた種”とはいえ、「仮想通貨安」が招いているとも考えられる「人民元高」にナーバスになっている。先週、2015年夏の通貨切下げ以降続けてきた人民元売りの抑制策をついに撤廃することを発表した。具体的にはこれまで、金融機関が「人民元売り=他通貨(ドル)買い」の為替予約をする場合は、中国政府(政府系金融機関)に「危険準備金(無利子)」として、予約残高の20%相当分を預託しなくてはならなかったのであるが、これを撤廃したのである。

 仮想通貨は根絶したいが、それによる人民元高は輸出への影響が大き過ぎる。中国のジレンマがここに透けて見える。

(スプリングキャピタル株式会社 代表取締役社長 チーフ・アナリスト 井上 哲男)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。