企業の報告書の「裏事情」

 企業のIR担当者さんは、私のように企業の取材をさせていただく立場からみると身近な、とても重要な存在なのだが、企業の中では意外と「孤独だ」という。物理的にも「ひとり」で、相談相手が居ないことも多いそうだ。そうしたIRさん達が横のつながりをつくり、定期的に勉強会をしていらっしゃる。今回はその勉強会に参加してきたのでご紹介したい。テーマは統合報告書、ノベルティグッズで、担当者さんの思い、自慢ポイント、悩んでいることなど伺った。

 まず、「統合報告書」だが、投資家がそこまで読むことは少ない気がする。出している企業も少ないのでは?と思って調べると、KPMGジャパンの2017年の調査では発行企業は341社、前年比50社増。東証1部の企業で全体の15%にすぎない。一方時価総額では51%になるという。大きな企業ほど出していると言えるだろうか。ある意味余裕がないと出せないのかもしれない。

 「統合報告書」とは「財務情報」と「非財務情報」を統合、まとめたもの。非財務情報には、環境や社会への配慮、知的資産、ガバナンス、長期的な経営戦略などを含む。欧州中心に機関投資家が社会的責任投資を重視するようになり、統合報告の発行が制度化されてきた。

 個人投資家にとっても、企業の理念を理解し、長期的な価値創造の仕組みを理解するうえで役に立つものではありそうだ。

 今回見せていただいたのは、まず丸井グループ(8252)の玉ねぎの表紙が目立つ統合報告書だ。この玉ねぎにも意味があり、1枚1枚むいていった外から見えない芯の部分がコアバリューだという考えが込められているのだそう。毎年1月くらいから、社長、広報IR、経営企画などで20回にもわたる会議を重ねてできあがる渾身の作で、特徴的なのは長い社長メッセージだ。これは、社内向けでもあり、取引先に向けての発信でもある。この5年くらいで業容が変わり、投資家にもなかなかわかってもらえなかったそうで、大きくなった金融部門の位置づけや、バランスシートで目指すものなども書いてある。

 MS&ADインシュアランスグループホールディングス(8725)では、「ぱっとみて読みたいと思ってもらうように」3項目にまとめる、文字を大きめにするなどの工夫をしている。損害保険の事業を説明するにはそもそも専門用語が多く言葉がかたくなる。製品がない、写真で見せることが難しい。そこで読み物として楽しんでもらえるように、海外の社員の言葉、生の声などを載せるようにした。保険業界の基礎知識なども載せてあり、成熟産業のように思われがちだが「海外比較では実はまだ伸びる市場なんです」と教えていただいた。

 アバント(3836) の報告書はちょっと珍しい白黒の写真が表紙になっている。連結会計のためのパッケージソフトウェアを開発・販売する会社で、「私たちは黒子なので、コーポレートカラーが黒なんです」とのことで、ノベルティグッズのティッシュも紙が黒だ。そして報告書がタブロイド紙サイズ。「お金がないので」とおっしゃるが、気軽に読ませる工夫でもあろう。昨年のものはすごろく、今年のものはスケルトンパズルで、パズルを埋めるためについ読んでしまった、孫といっしょにやったという声も寄せられたそうだ。

 統合報告書には決まった書式がない。何を載せるというルールもない。どんな情報を集めてどう出していくのか、担当者さん達の悩みどころだ。投資家の知りたいことを、といってもそれもまちまちで、機関投資家は「その目標は達成できるのか」との質問が多いが個人投資家からの要求はまた違う。それに会社が伝えたいことも出していきたい。ボリュームもタブロイド判から100ページ以上の冊子までと様々。紙にするのか、webで出していくのかという選択もある。そんな悩み多きなかでも、様々な思いをのせて、工夫されて出される統合報告書だということは良くわかった。これを利用しない手はないなと思う。

 また、ノベルティグッズにもさまざまな思いがこめられている。いちご(2337)のグッズからはパラアート支援、熊本支援などの姿勢がうかがえる。

 アステリア(3853)(旧インフォテリア)は間伐材を使ったスマホスタンドなどを出しているが、ASTERIAシリーズ5,000社達成記念で植林をしようとしたら、まず木材を使ってほしいと言われたのだそうだ。そんなエピソードを聞くとなるほどとうなづける。

 ソーシャルワイヤー(3929)では、サービスが増えてきたためそれぞれを正方形のマグネットにした。@Press・CROSSCOOPなどとサービス名が書かれたカラフルなマグネットはホワイトボードに使うのに評判がいいそうだ。

 曙ブレーキ(7238)のマクラーレンホンダグッズはマクラーレンチームにオフィシャルサプライヤーとしてブレーキを供給する同社ならではの貴重な品。また、ブレーキパッドという製品の箱の実物にどらやきをつめて配ろうかと考えているとのこと。

 IR説明会などでいただくことのあるノベルティグッズだが、ただ袋の中に同梱されていましたというより、こんな思いをこめていますというのがあれば、ぜひ一言語ってほしいと思った。

 私も投資家と企業の間のお互いの思いをもっとつなげていけるといけると良いのだが。

(フリーアナウンサー/証券アナリスト かのうちあやこ)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。