動き出す日本版統合型リゾート

新型コロナウイルスを巡って発出されていた緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が解除され、少しだけ通常の生活が戻ってきました。国内の人の移動は徐々に回復に向かいそうですが、さすがに海外からの観光客の受入れには時間がかかりそうです。

国は2030年に訪日外国人旅行者数を6,000万人、消費額を15兆円とする目標を掲げています。その目標の達成には日本の豊かな自然や独自の文化を堪能してもらうための「国際競争力の高い魅力ある滞在型観光」の実現が重要とされています。また、「MICE(Meeting、Incentive Travel、Convention、Exhibition/Event)」と言われる国際会議や展示会などのビジネスイベントを誘致することも目指しています。その一翼を担うのが「カジノを含む統合型リゾート(IR)」と言えるでしょう。実際、岸田首相は10月11日に行われた代表質問で、IR事業について「観光先進国となる上で重要な取り組みだ」と発言したことが伝えられています。

政府は昨年12月、カジノを含むIRの整備に関して、IR整備法に基づく基本方針を決定するとともに、区域整備計画の申請期間を2021年10月1日から2022年4月28日とする政令を閣議決定しました。国は自治体などから提出された整備計画を審査し、最大3か所のIR区域を認定する予定です。そんな中、8月22日に行われた横浜市長選では、IR反対派の山中竹春氏が当選しました。新市長は9月10日に行われた市議会の所信表明演説で、カジノを含むIR施設誘致を撤回すると正式に表明しました。公募に参加していた2社も撤退を余儀なくされました。最有力とみられていた横浜市が戦線を離脱したことで、逆にそのほかの候補地域はがぜん誘致に積極性を増し始めました。

和歌山県は和歌山市の人工島「マリーナシティ」へのIR誘致を進めています。既にカナダのクレアベスト・グループが事業者に選定されていますが、米国のカジノ大手シーザーズ・エンターテインメントが共同事業者に加わることになりました。シーザーズは85年近い歴史を持ち、米国を中心に約50か所でカジノを含めたIRの実績があり、19年12月期の売上高は日本円で約2,700億円という規模の企業です。一昨年夏に一旦日本進出を撤回していましたが、今回再度日本のIR市場参入を目指すことになりました。

また、横浜の離脱によって、長崎県の優位性も一気に高まりました。8月末には事業主体にオーストリア国営企業関連の事業者グループ「カジノ・オーストリア・インターナショナル・ジャパン」(CAIJ)を選定し、基本協定を結びました。「東洋文化と西洋文化の融合」をコンセプトに年間840万人の来訪を狙っています。さらに、当初は横浜と並んで最有力視されてきた大阪府と大阪市は、9月末に事業主体をアメリカ・ラスベガスの「MGMリゾーツ・インターナショナル」とオリックスの共同体「MGM・オリックス コンソーシアム」に決定しました。大阪湾の人工島「夢洲」に、カジノのほか、国際会議場や展示場、大型の宿泊施設や娯楽施設なども整備する計画です。大阪府では2025年に万博が行われますが、IRの開業は2020年代後半になる予定です。

カジノの設置に当たっては当然、多くの課題もクリアしなければなりません。ギャンブル依存症や破産リスク、治安の悪化、マネーロンダリングなどへの対策や青少年保護なども重要となってきます。とはいえ、地域経済の活性化や雇用拡大など、その効果も大きく、滞在型リゾートが日本にも根付くことが期待されるほか、初期投資の大きなプロジェクトとなりますので、建築、ディスプレー、遊戯機器、セキュリティ機器、人材紹介、交通など幅広い業種に恩恵が及ぶでしょう。コロナ禍の混乱のなかで、注目度が若干低下していますが、投資家としてはしっかりとその動向に目を光らせておく必要があります。


(eワラント証券)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。