半年後の危惧

米大統領選において、両候補による子供の喧嘩のようであった第1回テレビ討論会の後、トランプ大統領が新型コロナウィルスに感染したことによって第2回テレビ討論会が中止となるなど、異例の状態で進んだ大統領選も投票まであと2週足らずとなった。期待されたコロナ禍での追加景気支援策は、トランプ米大統領がその規模を1兆8,000億ドルレベルにまで引き上げるとしているものの、ムニューシン財務長官と民主党ペロシ下院議長との協議は引き続き膠着状態であり、同財務長官が先週末にCNBCテレビで「選挙前の実施は難しい(が努力は続ける)」と述べ、実施は大統領選後にずれ込む公算が高まっている。

今回、この追加景気支援策の実施時期が市場の大きな材料となったのには理由がある。
それは、前回の景気支援策である今春発動の「新型コロナウィルスの経済対策パッケージ」を受けて、深刻な状況に陥っている米国航空会社が、政府の要請もあり、この10/1まで人員削減を一時停止していたことにある。

比較的自己資本比率が高く、財務健全性に優れていると言われている日本の航空会社においても、中部空港を拠点とする「エアアジア・ジャパン」の事業継続断念に続いて、「ジェットスター・ジャパン」も6路線の運休(再開のメドなく、関空の拠点も撤退)を決め、ANAへは劣後ローンによる追加融資も報じられるなど、厳しい状況となっている。米国航空会社の状況はさらに深刻であり、進展しない協議に業を煮やしたトランプ大統領が、「250億ドルの航空会社の給与補填策と、1,350億ドルの中小企業の雇用支援策にすぐサインする(ので、上下両院はすぐに可決しろ)」とツイッターに書き込んだが、ペロシ米下院議長はこれに対して、「包括的支援策なしに航空支援法案のみの通過はない」と斬って捨ててみせた。

しかし、米国の航空会社で人員削減が一気に進められた場合、その影響は大きい。2012年から2014年にかけて、いわゆる「エバンズ・ルール」が採用され、「物価上昇率と失業率」に明確な基準を設けたことは記憶に新しいが、FRBは唯一、「雇用(失業率)」にも責任を負っている中央銀行であり、その施策にも影響を与える可能性がある。

米民主党のイメージカラー表す色である「ブルー」から、「ブルーウェーブ」、さらに「トリプルブルー」という言葉が生まれた。これは、「大統領選」でバイデン氏が勝利して上院選挙で民主党が過半数を得ると大統領、既に過半数越えの下院、そして上院の3つにおいて民主党支配が達成されるということだ。大型の財政出動がスムーズに行われるため、景気、そして、株式市場にも良い影響があるとされている。

しかし、果たしてそうであろうか。
10月6日に下院において、GAFAのいわゆるプラットフォーム事業に関する報告書が纏められたが、これを受けて、「事業の分離や反トラスト法(独占禁止法)の強化」が民主党から提案されている。また、エネルギーや金融といった、民主党が規制を強化したい業種を並べて見てみると、それは、これまでの米国市場を牽引してきた業種達であることが分かる。

先週、JPモルガン・チェースが好決算を発表したが、市場の反応が良くなかったのは、同社のジェイミー・ダイモンCEOの発言によるものだと私は考えている。今回、決算が良かった理由は貸倒引当金が前四半期から60%も減少したことにあるが、この貸倒引当金について同氏は、(現在の状態が)「必要額より100億ドル多すぎる可能性があるが、200億ドル少なすぎる可能性もある」と語った。
今回のコロナショックでは、リーマンショック時、また、2015年8月の上海ショック時のように“半年後の二番底”とはならなかったが、ローンの延滞は、理由となる事由発生後6カ月後に急増する傾向にある。同氏の言葉が大統領選6カ月後の米国の状態を危惧しているように思えてならない。


(スプリングキャピタル株式会社 代表取締役社長 チーフ・アナリスト 井上 哲男)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。