岸田新政権歓迎相場は衆院選後。好悪材料の綱引きで内需株が浮上する

9月29日(火)午後、事実上の次の総理大臣を決める自民党総裁選が行われ、決選投票の結果、岸田文雄氏が新総裁に選出された。自民党の名門派閥「宏池会のプリンス」と早くから呼ばれた同氏は、自民党が下野していた1993年7月の衆議院議員選挙で初当選、2009年の衆議院選挙で自民党は大敗、再び下野したものの、広島県内の小選挙区でただ一人自民党の議席を守った議員だ。

政権復帰後の安倍内閣では外務大臣に就任、4年8カ月もの長期間務め、自民党役員(政調会長)の経験も経た。派閥(岸田派)の領袖でもあり同氏の総裁就任についてサプライズはない。安倍-菅と続いた政権の方向性を大きく転換させることもないだろう。

自民党総裁選が行われた9月29日の日経平均株価は「639円67銭安」と大幅に続落したものの、主因は前日の米株市場が下落したことや、懸念が強まっている中国の大手不動産会社「中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)」のデフォルト(債務不履行)懸念を背景としたものであり、同氏の総裁就任が嫌気されたわけではないと思われる。

このあと臨時国会での首相指名を受け正式に総理大臣に就任、組閣が行われる。さらに11月半ばまでに実施される衆議院選挙を経て、岸田内閣初の大仕事となる「経済対策(年内に数十兆円規模の対策を公約している)」が策定される。

「成長なくして分配なし。分配なくして次の消費、需要も喚起されない。次の成長もない」、「幅広い国民の所得や給与を引き上げる経済政策をとる」として「令和版所得倍増」を掲げており、株式市場にはフレンドリーと思われるものの、具体策はこれからで未消化だ。総裁選挙活動時には子育て世帯や新型コロナウイルス禍で生活が困窮する人への支援策を強化するとしていたが、株式市場では耳新しいものではないだろう。

株式市場の岸田新総裁に対する評価は「可もなく不可もなく」と表現するのが適当だ。菅首相の総裁選出馬辞退表明からスタートし継続していた「新政権への期待」はすでに相場に織り込まれており、もう一段株価を押し上げる材料とはならないだろう。

ただ、女性候補2人を含む4名が立候補し、近年ないほど今回の自民党総裁選は話題となった。次期衆院選で岸田氏が掲げる勝敗ライン「与党で過半数」は楽にクリアすると思われる。日本の政治は安定した状況が続くことになる。


悪材料を避けると内需株に落ち着く

その中で株式市場では「好悪材料」の綱引きが続く。好材料は19都道府県に出されていた緊急事態宣言の解除によって進む「経済活動再開」だ。一部自治体では一定の制限が続くものの、外食・旅行・エンターテインメントなど広く個人消費に関わる企業の業績回復につながることは確実だ。とくに今回の宣言解除は、過去とは異なりコロナワクチン接種進展が背景にあることも消費関連株の動きを活発にさせるものと思われる。

悪材料(懸念材料)は大きく2点に集約できる。ひとつは米FRB(連邦準備制度理事会)が2020年3月から続けてきた量的緩和(資産購入)を年内に縮小する公算が大きくなっている「テーパリング懸念」だ。もちろんコロナ禍からの米経済回復に伴う金融政策の変更だが、株式市場では投機売りのきっかけとなる可能性もある。最近のFRB 高官発言では「米経済のさらなる改善が進んでいる」との認識を含んだものが多く、早ければ米時間11月2-3日に開催される米FOMC(連邦公開市場委員会)でテーパリング開始が決定されるかもしれない。 

もうひとつは目下最大の懸念となっている中国の大手不動産企業「中国恒大集団(チャイナ・エバーグランデ・グループ)」のデフォルト(債務不履行)懸念だ。中国政府による不動産規制強化を引き金として、中国の不動産企業では事業採算や資金繰りの悪化、建設中物件の工事停止、取引先への支払い停滞、などの混乱が生じている。「中国恒大集団」が資金調達のために保有物件の投げ売りをすれば、不動産価格下落を通じて同業他社にも打撃が及ぶ。また金融機関、投資家の損失発生は連鎖的に中国の金融システムに障害を引き起こす可能性があり、引いては世界市場に悪影響が及ぶかもしれない。中国では多くのことが政府の管理下にあるが、中国政府の情報開示は限定的で、さらに市場が懸念を強めている格好だ。投資家の多くは中国経済の影響力の大きさを認識しており、問題の鎮静化まで中国経済の影響を受けやすい銘柄を避ける傾向もある。これら状況を考え併せると、内需系企業で、国内状況の追い風を受けやすい銘柄が限定的に買われるイメージが浮かんでくる。

・しまむら(8227・東証1部)

女性ファッション衣料専門店チェーン「ファッションセンターしまむら」を全国展開。9月27日に今期純利益上方修正を発表。


JR東海(9022・東証1部)

東海道新幹線が主力で収益の約7割を稼ぐ。経済活動再開による観光、ビジネス需要回復は株価出直り期待に。


・ワタミ(7522・東証1部) 

外食と高齢者向け宅配弁当事業が主力。居酒屋を焼肉店へ業態転換進める。好調のから揚げ店も株価ドライバーに。


・カカクコム(2371・東証1部)

グルメサイト「食べログ」を運営、飲食店紹介・予約による収入が柱。緊急事態宣言解除による飲食店営業正常化の好影響を受ける可能性高い。


・ANAホールディングス(9202・東証1部) 

国内航空最大手、国内線、国際線とも首位。海外との往来制限が解除方向に向かえばさらに注目される公算。


(株式ジャーナリスト 天海 源一郎)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。