新興国市場:米国発非グローバル化と米ドル流動性の減少は悪?

<まとめ>

  • 米国による減税政策と苛烈な通商政策(追加関税)が米ドルの流動性減少のきっかけとなっている
  • 米ドルの流動性減少が、特に新興各国での経済危機を頻発させている原因かもしれない
  • 適度なドル安が、現在顕在化している様々な経済危機を緩和させる可能性がある
  • 適度なドル安が実現されるタイミングは来年以降となりそう

中国の人民元安対策が、新興国危機の救世主となる可能性も

 8月24日、中国外貨取引センター(以下、CFETS。中央銀行である中国人民銀行傘下)は8月に入って以降、毎日(毎時)公表している中国人民銀行基準値について、非景気循環的要因(Counter-Cyclical Factor )の調整を行っていると発表しました。
 これを端的に説明すると、例えば景気循環的要因(Pro-Cyclical Factor)で説明が付かない投機的な動機に基づく為替レートの推移などに対し、中央銀行は公表する基準レートを市場実勢から乖離させて提示、相場を人民元高に誘導する、市場介入に似た行為と言えます。
 実際、この取組が効を奏したのか、人民元は直近の安値から値を戻しているようです(図1 右側の破線以降)。これにより世界的な米ドル高の流れに歯止めが掛かれば、頻発する新興国問題にとって即効性のあるカンフル剤となるかもしてません。
 ちなみに、上述の人民元基準値調整は2018年1月まで継続されていましたが、所期の目的を達成したとして、公式には一旦中止されていました。現在と大きく違う点として、当時はまだ地方政府が抱える隠された負債問題が現在ほどクローズアップされていなかったことが挙げられます。従って、今回の通貨政策の行方は、同国におけるバランスシート問題の進捗次第と言えるかもしれません。

米中通商摩擦は米ドルの流動性減少を惹き起こす?


 現在、米中双方はそれぞれ500億米ドル相当の製品などに対して25%の追加関税を適用しており、早ければ9月中にも2,000億米ドル相当に対し、同じく25%の追加関税が追加適用される予定です。追加関税が両国の貿易に与える影響はまだ不明ですが、トランプ政権の目論見通りに米国が対中貿易赤字減少を実現すると、市場に流通する米ドルがその分減少することになります(例えば米中貿易においては、中国が輸出入の差引で受け取る米ドル金額が減少)。つまり、今回と同様の通商摩擦が世界に拡大するにつれ、米ドルの流動性は減少する可能性があると言えるでしょう。
 

米ドルへの集中リスクが、更に米ドルの流動性を縮小させている


 図3は米国債の保有者別割合の推移ですが、このところの米中通商摩擦や新興国危機等によるリスク回避を目的として、米国以外の国々による米ドルへの資金避難が進んでいるようです(2010年から2017年にかけては緩やかな減少傾向)。資金避難先に米ドルが選ばれる理由は、米ドルが実質的に世界中の決済機能の多くを担っていることが大きな理由の一つです。
 本来、米国債は大幅な財政赤字の拡大による今後の増発見通しから、その利回りは上昇してもおかしくないはずです。しかし、ここ数ヵ月利回りが上昇せずに停滞している(図4)のは、上述のような米ドルへの資金避難の動きが影響しているようです。米国以外の国々による米国債購入を通じて米ドルを吸い上げることにより、米ドルの流動性は減少の方向に向かっているとも言えるでしょう。この動きに伴って米ドルの為替相場が上昇基調にあることから、米ドルの流動性減少は米ドルの価値を押し上げていると言えるかもしれません。

米ドルの流動性減少でボトルネック(隘路)に直面する新興各国

 米ドルへの資金避難(資金集中)と平行して、諸外国による米ドル建債務の拡張は、特に自国通貨安が進行する新興国にとって、克服が困難な問題となりつつあります。例えば、高騰する米ドル対策としてドル売り介入をすると、外貨準備の減少を通じて一段の危機を煽る可能性を指摘されてしまいます。また、本来は有効な手段であるはずの利上げも、これまで好調に推移してきた自国経済に対する冷や水となってしまうかもしれません。
 トルコが模索するように、ドル以外の通貨での決済が可能になったとしても、現存するドル建債務問題が解決されるわけではありません。このままでは今後、危機に晒されている新興各国経済は、その進退が窮まってしまうかもしれません。

米国の政策が米ドルの流動性を減少させ、世界経済を萎縮させている

 米国の景気減速に伴う利上げサイクル休止とマイルドな米ドル安よって、現在直面する経済危機の多くを沈静化させることができるかもしれません。というのも、年初来の流れが下記のようなものだったためです;

  • 年初に発動された米国の減税(特に海外拠点からの資金還流優遇策。今年度のみ適用)により、米ドルの短期金利が急騰(海外市場(ユーロドル市場)において米ドルの流動性が急減したため)。
  • 減税と引き換えに、米国では財政赤字の急拡大が問題となり、長期金利も急騰(現在は横ばい)。
  • 米ドル高と米ドル金利上昇により、新興国の外貨建債務返済・新規借入・更新が困難になりつつあり、新興国危機が頻発。
  • 経済危機頻発を背景に、安全資産を求める動きから米国債への資金流入が続く。
  • 米国の通商政策によって米国貿易赤字の縮小した場合、それは米ドルの流動性減少を意味する。

米国が判断する現在地と今後の展望


 FRB(米国の中央銀行に相当)は現在の米国経済について、「拡大を続けているが、過熱感はない」「段階的な利上げを継続するのが妥当」としています。
 図5・図6をみると、特に米ドル指数(朱線)については過熱感を伴った上昇とは判断しにくいようで、米国金融市場はFRBの見立て通りに推移しているようです。前段において頻発する新興各国における経済危機などの火種は、米国の景気減速・利上げサイクルの休止・緩やかな米ドル安によって鎮静化が可能だとしましたが、そのタイミングはもう少し先のことになりそうです。

(eワラント証券 投資情報室 チーフ・ストラテジスト 塚本 誠)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。