今年2月に勃発したウクライナ戦争を引き金に、3月には1バレルあたり120ドル台まで上昇した原油価格(WTI原油先物)ですが、その後調整色を強め、一時90ドル台まで下落しました。しかし、足元では再度119ドル台まで上昇してきており、3月につけた高値に迫ってきております。コロナショックの影響で、一時マイナス価格にまで下落したことがまるで嘘だったかのような状況です。
このような中、日本の原油関連株の値動きはどうなっているでしょうか?
下の図1をご覧ください。こちらは2019年1月からの東証の鉱業株指数とWTI原油先物の価格を週次ベースでプロットしたものになります。

コロナショックの影響で原油価格が急落したため、鉱業株の株価もそれと連動する形で下落していましたが、足元では、原油価格の急上昇を受けて、鉱業株の株価も急上昇していることが分かります。株式市場では、「さすがに買われ過ぎだ。」とか「さらに上昇する可能性も十分ある。」など、様々な意見が飛び交い、注目の的になっているのが事実です。
しかし、このグラフだけ見ていても両者を比較した際に、どちらが割安でどちらが割高なのかというのが分かりません。鉱業株の財務諸表などから割安、割高を判断するのも一案ではありますが、ここではMWレシオ=鉱業株の株価÷WTI原油先物と定義し、そのレシオの推移を見ながら鉱業株の株価の妥当性を検証することにします。
下の図2をご覧ください。こちらは2019年1月からのMWレシオの推移を表したものになります。レシオの値が大きい(小さい)ほど、鉱業株の株価が原油価格に比べて割高(割安)と言えます。

いかがでしょうか?先程の図1のグラフと見比べていただくと、幾つか面白い事実が分かってきます。
- コロナショック直後の原油急落局面では、原油価格に比べて鉱業株の株価はかなり割高に取引されていた。言い換えるならば、一時マイナス価格になった原油価格は今から思えば異常値だったとも言える。
- 足元での鉱業株の株価は450ポイント台で取引されており、コロナショック以前の2019年の時と比べても株価は高値圏で推移しているものの、原油価格との相対性で考えるならば、むしろ2019年の時よりも今は未だ割安な水準とも言える。
では今、鉱業株は買いなのか?
実は、前述のMWレシオの定義だけでは、鉱業株と原油価格の関連性を正しく表しているとは言えません。なぜならば、鉱業株指数に分類されている企業は、日本円ベースの決算を前提としているため、円建ての原油価格でレシオを計算してあげる必要があるためです。ドル円相場が比較的安定しているならば、前述の定義でも問題ありませんが、足元のようにドル円相場までボラティリティが高まっている状況では、やはり再定義したほうが良いでしょう。
そこでMWレシオ(円建て)=鉱業株の株価÷(WTI原油先物×ドル円価格)と再定義して、再度グラフにしたものが下の図3になります。

注目していただきたいのは、2021年1月頃から足元までの両者の推移です(青色の点線で囲った部分)。
MWレシオ(円建て)の方が、低い値のままとなっているのが分かるかと思います。これは足元でドル円相場が円安方向に急上昇しているため、鉱業株の株価がよりいっそう割安に放置されていることを意味しています。
従って、現在の鉱業株の株価は高値圏にあるとはいえ、割安と言えるでしょう。
裸で買ってはダメ!!
注意しなければならないのは、絶対的に割安なのではなく、原油価格と比べた時に相対的に割安だ、ということです。例えばeワラントを使って、鉱業株を原資産とするコールを買うだけでは足りません。併せて、WTI原油先物を原資産とするプットも買う必要があります。そうすれば、MWレシオが上昇した場合、利益を得ることが出来るでしょう。[注]
[注] 実際には、時間的価値の減少などが伴うため、レシオが上昇した場合でも利益が出ないケースもあります。
(カイカ証券 吉野 真太郎)
※本稿は筆者の個人的な見解であり、カイカ証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。