株式分割は売りで攻める!?分割=買いの神話は崩壊したのか?徹底検証!

株式分割。
この言葉を聞くと、ざわざわしてしまうのは私だけでしょうか?
今から15年ほど前では、株式分割が発表された銘柄は翌日ストップ高になることも珍しくありませんでした。なぜなら、そうなるだけの特殊要因が当時は存在していたからです。
今では、分割基準日の翌日に新しい株式(新株)が増加し、その結果、その分株価が安くなるというのが当たり前ですが、当時は違いました。株式分割が発表されると、基準日に株価は分割比率相当分安くなりますが、新株はすぐに市場には出回りませんでした。つまり基準日と新株発行日の間にタイムラグ(約50日)が存在していたのです。
そのため、基準日から新株発行日までは株価が高騰し、新株発行日を以ってその高騰相場が終焉するという暗黙の経験則がありました。
従って、分割発表と同時に株を買い、新株発行を待ってドテン空売りする、という戦略がよくとられました。

少し話が横にそれてしまいましたが、このような背景があったために、いまだに日本市場には「株式分割=買い」というイメージがあるかもしれません。

しかしそれは昔の話であり、基準日と新株発行日が一体になってしまった今、果たしてその格言は通用するのでしょうか?

検証してみました。


検証方法

以下の方法で検証してみました。

  • 対象銘柄:2020年1月~2020年10月19日までに株式分割を実施した銘柄。
    • 条件1:1対2以上の分割銘柄のみ(1対1.1などの小規模分割銘柄は除外)。
    • 条件2:東証一部の銘柄に限定。
  • 検証方法:分割基準日から逆算した権利付き最終売買日(T)の終値を100として、その後の各銘柄のパフォーマンスをT+30日まで検証。※30日は営業日ではなく日付ベース
  • ベンチマーク : 同期間のTOPIXのパフォーマンスと比較する。


検証結果

下の表をご覧ください。

権利付き最終売買日(T)コード銘柄名
2020/01/29 3176 三洋貿易
2020/01/29 4382 HEROZ
2020/01/29 4674 クレスコ
2020/02/26 2726 パルグループHLDG
2020/02/26 3387 クリエイト・レストランツHLD
2020/03/27 3341 日本調剤
2020/03/27 3397 トリドールHLDG
2020/03/27 3452 ビーロット
2020/03/27 3563 スシローグローバルHLDG
2020/03/27 3626 TIS
2020/03/27 3694 オプティム
2020/03/27 3835 eBASE
2020/03/27 3918 PCI HLDG
2020/03/27 4526 理研ビタミン
2020/03/27 4574 大幸薬品
2020/03/27 4767 テー・オー・ダブリュー
2020/03/27 6078 バリューHR
2020/03/27 6594 日本電産
2020/03/27 7033 マネジメントソリューションズ
2020/03/27 7466 SPK
2020/03/27 7820 ニホンフラッシュ
2020/03/27 7839 SHOEI
2020/03/27 8919 カチタス
2020/03/27 9470 学研HLDG
2020/04/27 3480 ジェイ・エス・ビー
2020/05/27 1973 NECネッツエスアイ
2020/05/27 3349 コスモス薬品
2020/05/27 4396 システムサポート
2020/06/26 3762 テクマトリックス
2020/06/26 3940 ノムラシステムコーポレーション
2020/06/26 4519 中外製薬
2020/06/26 9658 ビジネスブレイン太田昭和
2020/07/29 3565 アセンテック
2020/07/31 3922 PR TIMES
2020/08/27 3141 ウエルシアHLDG
2020/08/27 3962 チェンジ
2020/08/27 7192 日本モーゲージサービス
2020/09/28 3199 綿半HLDG
2020/09/28 4299 ハイマックス
2020/09/28 4552 JCRファーマ
2020/09/28 4568 第一三共
2020/09/28 6036 KeePer技研
2020/09/28 7947 エフピコ
2020/09/28 8715 アニコムHD
2020/09/28 9551 メタウォーター
2020/09/28 9966 藤久

(eワラント証券にて作成)


これらの47銘柄が上記条件にヒットした銘柄群になります。

そしてT+X(1≦X≦15)の時点での、ベンチマークに比べた際のパフォーマンスの優劣(オーバーパフォーム/アンダーパフォーム)を銘柄ごとに計算し、集計したのが下の表になります。

T+X勝ち(銘柄数)負け(銘柄数)勝ち比率負け比率
T+1 21 26 45% 55%
T+2 29 18 62% 38%
T+3 28 19 60% 40%
T+4 17 30 36% 64%
T+5 14 33 30% 70%
T+6 14 33 30% 70%
T+7 15 32 32% 68%
T+8 17 30 36% 64%
T+9 20 27 43% 57%
T+10 20 27 43% 57%
T+11 22 25 47% 53%
T+12 21 26 45% 55%
T+13 24 23 51% 49%
T+14 26 21 55% 45%
T+15 24 23 51% 49%

(eワラント証券にて作成)

如何でしょうか?
まず言えることは、株式分割=買いという神話はもう通用しないということです。
株式投資の入門書などには、「株式分割は投資金額を低くすることにより、多くの投資家が購入できることになるため、良い材料だ」と書かれていることがありますが、それは短期的には必ずしも正しくないということになります。
むしろT+5のタイミングに向けて、最終売買日(T)時点で分割銘柄を空売りするのが正しい選択になるのではないでしょうか。

理由としては幾つか考えられますが、

  • 株式分割を実施する銘柄は、足元の株価上昇を背景に、1単元あたりの株価が高すぎる状態になっているがために、分割を実施しようとするケースが一般的であるため、分割を契機に十分利益を出せた買い方の利益確定売りが出やすい。
  • 1単元しか保有していない投資家は、株価が上昇したタイミングで、保有比率を下げたいという発想になりがちですが、分割前では売ってしまうと保有比率がゼロになってしまいます。しかし分割後に、増えた株数だけ売ることで保有比率を下げることが可能となるため、そのような投資家層からは売りが出やすくなる。

などが考えられます。

しかし、一方で企業の思惑通り、分割を行えば、1単元当たりの投資金額が下がるわけですから、今まで最低投資金額が高すぎて購入することが出来なかった投資家からの買いを誘うことは可能となるでしょう。

従って、ポジティブな面とネガティブな面のどちらが強いかという話になりますが、どうやらネガティブな要因の方が強いように、検証データからは見て取ることができるでしょう。

ただ、これは短期的なデータ検証に過ぎません。
企業が株式分割をするということは、将来の株価上昇への自信の表れとも言えますので、長期的には反発し、株価は上昇していくかもしれません。
今後、この点に関しても検証していきたいと考えております。

今回覚えておいていただきたいのは、株式分割は短期的には売りということです。
ご参考にしていただければと思います。


(eワラント証券)

* 本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。