物色転換の可能性=主力バリュー株をウォッチ

「インバウンド消費関連株再考気運は高まりそう」

 株式市場の懸念材料を整理しておきたい。それぞれの事案に付帯するものも含めると数が増えるが、主には以下の5つを指摘することができよう。

・米金融引き締め(インフレ抑制)
・国内コロナ感染拡大(国内消費)
・ロシア・ウクライナ緊張(地政学的リスク/コモディティ価格上昇)
・国内政治状況(岸田政権支持率)
・中国景気減速(ゼロコロナ政策)

 これらは常に同じ程度で株式市場に影響しているわけではなく、動きがあった時に動意を促し、その後反転の動きにもつながる。ここまでその状況が継続していると言っていいだろう。その中にあって東京株式市場では日経平均株価は8月17日(水)に終値ベースで約7か月ぶりに2万9,000円台を回復した。この背景にはプライム市場上場3月期決算企業の2023年3月期通期予想が、売上高前期比約10%増、経常利益約8%増となったこと、その要因として製造業において円安が寄与したことがあるだろう。加えて、内需系企業の業績に悪影響が大きい「国内コロナ感染」において、日々の感染者が過去最高を更新する中でも、政府による行動制限(まん防、緊急事態宣言)が取られなかったこと、そして足元で日々の感染者が減少傾向にあることで決定的な悪材料にならない見通しが出てきたことが指摘できる。前回7月29日公開記事のタイトルを「日本株は悪材料への耐性を強めた」としたが、概ねそのラインの動きとなったと思う。この先の国内の動きを想定すると…9月7日から、日本への入国・帰国時のPCR検査が免除されることにより、これまでより多くの外国人観光客の訪日が見込まれる。株式市場では「インバウンド消費関連株」が息を吹き返すかもしれない。過去のコロナ感染収束局面で話題となった経緯がある銘柄を挙げる。

【インバウンド消費関連株】

・日本空港ビルデング(9706・プライム) 

・共立メンテナンス(9616・プライム)

・寿スピリッツ(2222・プライム) 

・マツキヨココカラ&カンパニー(3088・プライム) 

・ANAホールディングス(9202・プライム) 

「パウエル議長講演後にバリュー株が動意?」

 日本時間8月26日深夜、パウエル米FRB議長がカンサスシティ連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)で講演を行い、米金融政策の現状と見通しについていくつかの示唆をした。

「インフレ抑制は家計や企業に痛みをもたらす」
「インフレ抑制が失敗するとさらに大きな痛みとなる」
「早期金融緩和は(過去の失敗例からみて)性急すぎてはいけない」
「インフレピークアウトには程遠い」
「9月の利上げ幅は今後のデータ次第」
「将来的には利上げペースを緩めることが適切」

 これを受け米株が急落し、8月29日の東京市場でも日経平均が762円安、全面安となった。とくに指数寄与度が高い大型グロース株の下落が目立った。パウエル議長の講演内容は、これまでの政策スタンスを追認したものと捉えることもできるが、いずれにしても株式市場ではまずネガティブ反応が見られた。年初からの米利上げは、その後米景気減速につながるとされ、東京市場では次第に景気敏感株(バリュー株)が売られ、逆に独自に成長性を持つ成長株(グロース株)の出直りとなっていた。全体相場がネガティブ反応を見せた時にもその後の出直りが気にされるが、ここまでの数日間、バリュー株の反応がグロース株に比べて良いようだ(下落が限定的、買われる銘柄が多い)。単純にここまで出直りの動きを見せていたグロース株の一服、対して割安感があったバリュー株の水準訂正かもしれないが…それとは別に、これまでの動きとこれからの動きが異なる端緒かもしれないケースも想定しておきたい。株式市場は実体の動きを先取りするは言うまでもないが、その前提から、株式市場はすでに米景気減速懸念を織り込み、次の局面=米景気回復を反映しているのかもしれないという想定だ。この見方が正解か否かは、以下のような日本を代表するバリュー株の動向に表れるだろう。正解の場合は株価にポジティブ反応となる公算だ。

【主力バリュー株】

三菱重工業(7011・プライム)

日本製鉄(5401・プライム)

日立製作所(6501・プライム)

日産自動車(7201・プライム)

ブリヂストン(5108・プライム) 

(株式ジャーナリスト 天海源一郎)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、カイカ証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。