米司法省のGoogle提訴、マイクロソフトの事例に学ぶ

米司法省は20日、独占禁止法(反トラスト法)違反の疑いでAlphabet(GOOGL)傘下のGoogleを連邦地裁に提訴しました。GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)に代表されるIT大手に関しては、1年ほど前から米司法省などが反トラスト法違反で調査に乗り出していましたが、他企業に先んじて法廷闘争に進むことになりました。米司法省が反トラスト法違反の疑いで提訴に踏み切るのは、1998年のMicrosoft以来で、重大な案件となりそうです。


米司法省の主張とGoogleの反論

今回の提訴の理由について、米司法省は以下のように挙げています。

  • 自社のサービス(Android)提供先に自社の検索アプリを初期搭載させ、競合他社サービスの初期搭載を禁じる排他的契約を結んでいること。
  • AppleやSamsungなどのデバイスメーカーに毎年数十億米ドルを支払い、自社サービス(検索エンジン、OS、ブラウザ)を標準サービスとして搭載するよう促し、競合他社の成長を阻害している。
  • 上記の結果、米国におけるインターネット検索の約90%、特にモバイルを使用した検索の95%をGoogleが独占している。
  • 圧倒的な検索エンジンでのシェアを利用し、インターネット広告でも独占的な立場を築き、小規模な競合他社の参入を阻害している。
  • 健全な競争を阻害する戦略により、消費者の選択肢を減らし、ひいてはイノベーションを抑制している。
  • Googleの独占的取引に処罰を加えることに加え、「構造的救済措置」を行うべきである。

一方で、Google側は公式Blogで以下のように反論をしています。

  • 他の検索エンジン(Bing(Microsoft)やYahoo!)もデバイスメーカーや通信事業者に費用を払っており、競争関係にあること。
  • それでも各社に選ばれているのはGoogleの検索エンジンが他よりも優れているからである。
  • Googleを使いたくない場合は、容易に検索エンジンを他社サービスに変えることができる。
  • Googleのサービスを広く提供するための手段としてAndroid OSを無料でデバイスメーカーに提供しているが、それにより消費者は安くデバイスを手に入れることができている。

前述の「構造的救済措置」とは企業分割を含む市場構造の是正を図る措置のことを指します。実際に過去には1984年に米通信会社AT&Tが長距離通信の機能のみを残し、地域の電話機能を8社に分割されるなど、反トラスト法違反で企業分割に追い込まれたケースがありました。

米司法省の主張の通り、Googleが圧倒的な検索シェアを獲得し、そのシェアを利用して大きな広告収入を得てきたことは間違いありませんが、Googleにとって検索と広告は不可分であると考えられます。仮にこれらが分割されるようなことがあれば、これまでのような成長とサービスの拡充に大きな障害となる可能性が高くなるかもしれません。投資家やユーザーにとっても影響の大きい訴訟となりそうです。

ですが、米司法省が提訴をすることまでは市場に織り込まれていたのか、発表当日のGoogleの株価は前日比1.4%高で終えるなど、今のところ株式相場に大きな影響は出ていません。今後の裁判の行方に注目が集まります。


Microsoftの事例を振り返る

今回の訴訟が今後どのような動きになるかはわかりませんが、過去の事例を確認しておくことは有益かもしれません。米司法省がハイテク大手を反トラスト法違反で提訴した直近の事例としては、1998年のMicrosoft訴訟が挙げられます。

図2は米司法省がMicrosoftを提訴した1998年から最終的に和解が成立した2003年までのMicrosoftの株価推移と、訴訟に関わる大きな出来事をまとめたものです。

1998年5月、米司法省はMicrosoftが自社OS(Windows 98)の市場における独占的立場を利用して、自社のインターネットブラウザ(Internet Explorer)を標準ブラウザとして搭載することや、インターネットサービスプロバイダと排他的取引契約を結ぶことなどで不当に競争を抑制したとして、同社を反トラスト法違反で提訴しました。

連邦地裁での審理の結果、2000年4月にMicrosoftの反トラスト法違反が認定され、同年6月には是正措置としてMicrosoftのOS部門とアプリケーション部門を分社化することやWindowsに関連するAPIを公開することを命じました。これに対しMicrosoftは控訴をし、2001年6月の控訴審ではMicrosoftが逆転勝訴、地裁差し戻しとなり、同年11月に司法省とMicrosoftが和解することに合意したことで一旦の解決となりました(正式な和解成立は2002年11月)。ただし、和解成立後も和解条項に基づき、2011年まで両者は連邦地裁へ共同で報告書を提出しており、終結までには12年の月日を要しています。


Microsoftの株価は提訴された1998年以降も大きく上昇していました。これはMicrosoftが発売したWidows95、98が世界的なヒット商品となるなど、コンピュータの普及に伴って同社が大きく売上を伸ばしていたことや、コンピュータの普及に併せて爆発的に増えたインターネット通信により誕生したITベンチャー(Yahoo!、Amazonなど)の人気が高まる(いわゆるITバブル)中で、Microsoftへも資金が流入したことが原因と考えられます。

しかし、連邦地裁での敗訴と事業分割への懸念のためか2000年4月に株価は急落し、その後もITバブルの崩壊も相まって株価は大きく下落をしています。その後は、控訴審での逆転勝訴や和解合意の際などに戻り高値をつけるケースはありましたが、米国同時多発テロ(2001年9月11日)やそれに伴う中東での地政学リスクの高まりを受けて軟調に推移していました。

単純に株価を見るだけでは、当時のMicrosoft株が強かったのか弱かったのかがわからないということもあり、主要な株価指数と比較したものが図3です。90年代後半は主要指数より高いパフォーマンスを示していたMicrosoft株ですが、連邦地裁での敗訴により他のIT企業(ナスダック)に先んじて下落をしています。ただし、下げ一巡後は逆転勝訴、和解への期待の高まりからか、再び指数を上回るパフォーマンスを見せています。


Microsoft事例に学ぶ

Microsoftの事例と今回のGoogleの事例では独占的立場にあったのがOSと検索エンジンという違いはありますが、どちらも競合他社に対し圧倒的な優位性をもち、自社が普及させたいものを標準搭載するように他社に強いていたという共通点が見受けられます(Microsoft:WindowsとInternet Explorer。Google:Android、Google SearchやChrome)。また、Googleの検索エンジンを標準搭載するために、Appleなどのデバイスメーカーに対し多額の資金を支払っていたことも司法省は問題視しているようです。小規模なスタートアップの参入が難しい非競争的な市場をもたらしたという意味では共通しているとも言え、違法性が認められる可能性は否定できません。

問題はその際にどのような是正命令が出るかでしょう。Microsoftの事例を見ると、提訴後も株価は上昇していることから、提訴そのものが株価に与える影響は軽微だったと考えられますが、審理の結果として不利な判断が下される懸念が高まると株価には大きな下落圧力がかかると考えられます。Googleのケースでも、検索部門と広告部門の分割を含めた是正措置を司法省が求めていることから、審理がGoogle不利に進んでいけば、株価に大きなインパクトを与える可能性もありそうです。

加えて、Microsoftの場合、仮に分割されていたとしてもOSとアプリケーションの双方で売り上げをあげることができますが、Googleの収益源はほぼ広告に限定されています。広告事業の分割は他のサービスの低下にもつながりかねず、分割命令が出されるハードルは極めて高いと考えられます。にもかかわらず、分割の命令が出されたとすれば、相対的に影響は大きくなると考えられます。

また、訴訟が長期化することにも警戒は必要です。Microsoftの場合は提訴から和解成立まで4年半、その後の報告まで含めると12年の月日を要しており、今回も早期に和解が成立しない場合は同等かそれ以上の時間を要することになるでしょう。当然その期間中の訴訟費用は発生しますし、係争中ということで新サービスの導入等に遅れが出る可能性もあるでしょう。Googleの売上や利益には障害となりそうです。


(eワラント証券 多田幸大)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。