米国株式市場:利上げ or 利下げ? 景気拡大 or 景気後退?

 昨年の10月以降、世界的な景気後退懸念により、各国の株式市場は年末にかけて大きく下落しました(図1)。しかし、利上げを行って間もないパウエルFRB議長が、景気動向を横にらみしつつ金融政策を運営する準備があるとの発言(市場は利上げ休止示唆と判断)をきっかけに相場はV字回復し始めました。その上昇に勢いがつき始めると、今度は景気拡大の継続が多くの市場参加者やエコノミストから聞かれるようになっています。利上げなのか、利下げなのか。景気拡大なのか、景気後退なのか。一体どちらなのでしょうか?
 本稿ではこのような極端な見解の相違をもたらす強弱材料について改めて詳しく検証したいと思います。

<検証のポイント>

  • 2019年、FRBによる利下げへの転換は考えにくいと予想される。
  • 景気は依然として失速方向に向かっているように見受けられる。
  • 今後、米国政府の債務額の拡大が金利低下を阻み、景気拡大の足かせになる可能性も考えられる。

確かに米国の足元経済は力強い

 FRBに与えられた2つの命題(Dual Mandate)「物価の安定」と「雇用の拡大」という観点からすると、これまでの金融政策運営には及第点がつけられるでしょう(図2)。4%を割り込む失業率は(青線)、FRBの考える自然失業率に近く、インフレ指標である個人消費支出もFRBが掲げる2%の目標前後で安定的に推移しています。

 また、直近では12月の非農業部門雇用者数が昨年2月以来の大きな伸びを見せ、景気拡大基調持続と見る向きが増えているようです。こうして見ると、FRBは利下げに踏み込みにくいのかもしれません。

景気後退を理由にFRBは利上げを休止(または打ち止め)するか

 一方で、物価や雇用の基となる企業の動向に目を向けてみると、景気の先行指標でもある製造業PMI(図3 青線 製造業購買担当者による業況判断)は8月にピークを打った後に下落傾向となり、遅行指標である鉱工業生産(緑線)も2ヵ月遅れで下落基調に入ったことが確認できます。つまり、景気の鈍化は続いているように見受けられます。この点からすると、FRBによる利下げの可能性はありそうにも思われます。

 このように、FRBの2大命題「物価」と「雇用」の観点からは段階的な利上げが、景況感からすると利下げが妥当に思われます。どちら付かずの状況ですが、このほかにも留意すべき材料があります。米国の金利が構造的に下がりにくくなりつつある点です。

構造的に金利の低下を望みにくくなった米国

 米国政府の債務額は拡大基調をたどってきました。そこへ昨年のトランプ減税が追い討ちをかけています(図4)。過去50年間における米国政府の債務残高は平均で対GDP比50%でしたが、直近では約105%(2017年確定値)となっています。
 一般的に、借り手の借入依存度が高くなるほど、借入金利は高くなる傾向にあります。その理由は、借り手による返済余力が減少する点にあります。

 また、米国政府はその借金を主に米国債の発行で賄うことになりますが、米国債の需要と供給の側面からも、金利は上昇しやすくなります。米国債が市中でダブつくと、価格は下落し、反対に金利が上昇するためです。

<結論>

 各経済指標の観点からは、現在の米国経済は、拡大とも後退とも判断がつきかねるのが現状です。
ただし、金利の観点からすると構造的な問題も含め、今後は利下げ(短期金利)をしたとしてもその効果は薄らいでいく可能性が考えられます。長期金利が下げ止まる傾向にあるためです。したがって、2019年の米国景気は、特に長期金利の上昇が足かせになりかねないともいえるでしょう。
 そういった意味では、現在、ほぼ3分の2のエコノミストが2020年に米国が景気後退入りするとしているのはバランスの取れた判断かもしれません。ただし、米国だけではなく、中国やEUなどにこれまで以上のストレスが加わると、景気後退を予想するこの見立ても前倒しとなるかもしれません。

(eワラント証券 投資情報室 チーフ・ストラテジスト 塚本 誠)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。