米国発貿易戦争?その行方について

 先週、トランプ大統領による追加的関税措置発動が市場に衝撃を与えました。今後の展開はどうなるのでしょうか?

サマリー:

  • 中国をターゲットとした制裁措置はこれから本格化。
  • 中国以外については、これ以上のポピュリズム策を推進する蓋然性は低い。

中国の反応:

 米国内の報道によりますと、在米中国高級外交筋の話として、「中国は米国との貿易戦争を欲しないが、国益は護るつもりだ」「もし間違った判断や憶測をベースに(米国の)政策が決まるのだとしたら、米中関係にとって望まない結果となるだろう」と、今回のトランプ政権による関税措置を牽制しています。

 因みに、米国の鉄鋼調達先は下記の通りで、一見、中国をメイン・ターゲットにしているわけではなさそうにも見えます(表1)

表1:米国の主要鉄調達先

対米鉄鋼輸出ランキング
1位 カナダ 16%
2位 ブラジル 13%
3位 韓国 10%
4位 メキシコ 9%
4位 ロシア 9%
6位 トルコ 7%
7位 日本 5%
8位 台湾 4%
9位 ドイツ 3%
10位 インド 2%

出所:アメリカ合衆国商務省貿易局「Global Steel Trade Monitor」2017年12月号より

今回の追加的関税措置に対する市場の反応:
 米国経済にとってネガティブな影響が多いとして、株式市場・為替市場を中心に「米国売り」となりました。多くのエコノミストは「高コストの鉄・アルミが特に自動車・石油関連企業を中心に、輸入の減少以上のインパクトを持って雇用を破壊する」と考えているようです。

対中制裁の経緯:

 「中国による知的所有権の侵害や、中国政府による外資企業への技術移転を強制する行為が貿易協定(WTO)違反、もしくは米国通商代表部(USTR)が「不公正」と判断した場合には通商法301条による制裁措置の発動を検討している。」としています。昨年の8月18日、USTRによる調査が着手され、同年10月10日には公聴会も開かれました。
 日本では昨年の12月中旬にUSTR関係筋の発言として「米通称法301条に基づく対中措置は来年初めに発表する。輸入制限と関税賦課を含む厳しい措置となる。」と報道されています。

2017年8月18日USTR発表要旨:
 2017年8月24日JETRO世界のビジネスニュース(通商弘報より)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2017/08/c8871894e15767c2.html
 USTRによると、以下の4つの中国政府の行為の有無が今回の調査対象になる(パブリックコメントの内容を受けて、今後追加される可能性あり)。中国企業への技術移転を強制する行為やライセンス規則、米国企業の買収、サイバー攻撃など幅広い行為が含まれている。

  1. 米国企業の技術や知的財産を中国企業に移転することを目的に、米国企業の中国事業を規制・干渉する中国政府の行為(不透明で裁量的な許認可の行政プロセスや合弁事業の強制、外資資本比率の制限、調達に係る差別などを含む)。
  2. 市場原理にのっとったライセンスや技術契約を、米国企業が中国企業と結ぶことを妨げる中国政府の行為〔技術輸出入管理令により義務付けられている補償(注2)や改良技術の帰属に関する条件(注3)などを含む〕。
  3. 中国の産業政策に合致した先端技術や知的財産権を取得することを目的に、中国企業による米国企業の組織的買収や投資に対して中国政府が行う指示や不当な支援。
  4. 米国の商業コンピュータネットワークへの違法侵入、知的財産・営業秘密・ビジネス関連の機密情報を電子上で窃盗する行為への中国政府の関与または支援。

 『なお、通商法301条では、USTRは調査開始後12ヶ月以内に制裁措置等の内容を決定し、決定後、30日以内(180日に延長可)にこれを実施することとされている』

今後を占う:
 今回の追加的関税措置は一見、中国には大きな影響がないようにもみえますが(鉄鋼の対米輸出ではカナダ、ブラジル、韓国がトップスリー)、これは今後に向けた第一歩であり、今後も引き続き対中制裁が打ち出される可能性は高いと思われます。
 というのも、トランプ政権は、中国政府が十分な市場開放策なしにWTOへ加盟(2001年)し、その後も状況は変わっていないと考えているからです。中国政府が規制緩和を実行しない以上、これを第三者機関(WTO)に提訴する選択肢もあったはずですが、今回はルールを飛び越えて追加的関税措置を発動せざるを得ないとの判断に至ったようです。
 他方、同盟国・友好国の多い欧州・アジア諸国については、事態がエスカレートするとは考え難い状況です。むしろ「振り上げた拳をどのように下ろすか」に興味は移るのではないでしょうか。その意味では現在、カナダと見直しを進めている北米自由貿易協定(NAFTA。1994~)からの米国離脱が確定するか否かがカギになります。
 なぜ対中制裁に限定されるのでしょうか?その理由は、輸入減が必ずしもメリットではないとの見方がある中、米国がこれ以上「アメリカ・ファースト」策をゴリ押しし難い状況にあるからです。直近、調整色を強めた株式・債券市場、好況期にもかかわらず公約実現に向けたインフラ整備の拡張、これによる財政収支の悪化は、米国のファイナンス事情にとってネガティブな影響を与えてしますからです。世界規模での貿易戦争へ移行してしまうと、株式・債券・為替のトリプル安となるリスクが高まり、米国が自らの首を絞める結果になるのではないでしょうか。

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。

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