米国金融政策:景気後退に傾く景況感、今後の金融政策運営には黄信号

<概要>

  • FOMCにおける金融政策の転換(引締めから緩和へ)は、FRBが景気後退期の到来が一段と早まったとの判断を反映させたもの
  • 長短金利の逆転は景気を後退させるスイッチではなく、傾向を示すもの。長短金利の逆転から景気後退期入りまでには時差を伴うことが多い点には留意が必要
  • FRBによる金融緩和策への方向転換は、景気後退リスクの顕在化を未然に防ぐことが主な目的。ただし、金利の絶対水準が低いだけに、政策の選択余地は少ない
  • 官民の債務拡大が継続する中での低金利維持には困難が伴うことから、今後の米国市場は緩やかな下落基調に移行か

FOMC(連邦公開市場委員会)が今後の利上げ見通しなどを変更

去る3月19日と20日、米国の政策金利を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)が開催されました。

FOMCのポイントは下記の3点です。

  • 景況判断について、これまでの「底堅く拡大」から「底堅いペースから鈍化へ」変更したこと。
  • 現時点では年内の利上げを休止する方向にあること。
  • FRBのバランスシート縮小は2019年9月をもって終了とすること。

※10月以降はSOMA(公開市場操作用口座)の資産保有額を一定に保つとしています。

FRBによる景況判断の後退は、昨年末以来の「辛抱強く利上げのタイミングを待つ」姿勢から、今後起こりうる景気後退に対し、予防策(金融緩和への軌道修正)を講じる動機付けとなっています。つまり、FRB内部では景気後退が近づいたとの判断が働いたものと考えられます。

長短金利差逆転は、景気後退期入りの判定スイッチではない点に要注意


いくつかの報道が指摘するように、FRBは短期米財務省証券と長期米国債の利回り格差の動向を考慮したのかもしれません(図2 青線)。その意味で言えば、昨年終盤の米株式市場の下落は、景気後退を織り込む動きだったと言えるのかもしれません。

長短金利差が逆転したからといって、必ずしもこれを境に景気後退期入りとなるわけではありません。

過去の例を見ても、長短金利の逆転には景気後退との因果関係が認められはしますが、直接の原因ではないからです。

長短金利の逆転から景気後退が確認されるまでには時間差がある点に要注意です。

問題は適温相場の再来を求める市場にあるのかもしれない 


FOMCでFRBが金融緩和への方向転換を決断したきっかけは、昨年終盤に起こった株式市場の大幅な下落であったと思われます。

FRBとしては、金融政策の正常化(利上げ)を継続すれば、株式市場の崩壊による逆資産効果が、実体経済の軟化につながることを畏れたのだと思われます。

危機感を募らせる一方で、FRBが金融市場の緊張度合いを測る物差しとして用いるセントルイス連銀金融ストレス指数(図3 黄線)によると、現在は依然としてマイナス領域(通常よりもストレスがかかっていない状況)を保っているようです。

こうしてみると、現時点で物価と雇用(FRBの法的使命)が安定し、市場のストレスも少ない中で金融緩和を敢行することは、これまでの金融政策との整合性が確保されない点で問題があるといえるでしょう。

さらには、現在の政策金利(短期)は2.25~2.50%のレンジに定められており、利下げ余地は限られたものとなっています。

景気後退リスクへの対応について、FRBは既に昨年9月のジャクソンホール会議においてパウエル議長自身が触れています。

発言要旨を見てみると、10年に一度に発生するかしないかの重大な金融リスクが発生した場合、必要であればFRBは大幅な金融緩和で対応する準備があるとしています。

その一方で、一定水準以上の利下げを行った場合、その効果は低下するともしており、現行の低い金利水準では今後の政策手段は限られる可能性もあるでしょう。

今後の展開:


米国株式市場は今後、緩やかに下落することが予想されます。FRBによる景気見通しが示す通り、直近の経済指標も景気後退を裏付け始めているためです。

また、FRBが金融緩和に政策転換を図ろうとしているにもかかわらず、官民による債務が拡大傾向にある(金利上昇要因)ことは、緩和政策の効果を薄めることになりかねないと思われます。

このほかの懸念材料としては米国自身の依存度も高い中国や欧州の景気鈍化が挙げられるでしょう。

また、直近では中国との通商摩擦の影響か、経常収支の赤字も拡大傾向にあり(図3)、為替面では米ドル安が進行する可能性も懸念されます。輸出依存型の日本企業にとっては打撃となりかねません。


(eワラント証券 投資情報室 チーフ・ストラテジスト 塚本 誠)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。