米国金融緩和:景気循環とのやっかいな関係

金融緩和の再開が世界的な流れとなりつつあるのかもしれません。

きっかけは昨年10月以降に起きた、米国発の株価暴落です。

その後、FRB(米国の中央銀行に相当)が、資産縮小について停止を示唆したことで株式市場は急回復しています(政策金利引き下げについてはペースの減速に留めています)。

FRB自身による米国の景気判断は依然として「底堅い成長を続けている」(パウエル議長)としていますが、同時に中国・欧州経済の減速傾向が米国経済に与える影響に対し、繰り返し警戒感を示してもいます。

このような状況をパウエル議長は「不透明」と総括し、政策金利引き上げのタイミングを「辛抱強く」待つ現在の姿勢を正当化しているようです。

本稿ではこのところの市場が抱く金融緩和期待に対し、実際に金融当局(この場合はFRB)が本格的な金融緩和に着手する(政策金利の引き下げを含む)タイミングとの間にはかなりの差があるとの前提に立ちます。

その上で、景気減速に対する金融緩和の効果について、まずは過去の事例をおさらいし、今後についてお伝えしたいと思います。

金融緩和の方法は、大きく分けて2つある

金融緩和には、①質的緩和(政策金利引き下げ)、②量的緩和(市場への資金供給を増やす)といった2つの方法があります。

FRBはまだ質的緩和(政策金利引き下げ)の判断を下していません。

今のところパウエルFRB議長からの発言はありませんが、2019年における政策金利引き上げのペースを2回(昨年11月の連邦公開市場委員会(FOMC)にて示唆)から、2019年と2020年に1回ずつと予想する地方FRB連銀総裁発言もあります。ちなみに、次回の連邦公開市場委員会は3月19・20日に予定されています。

量的緩和についてFRBは、リーマンショック以降にFRBが買い入れた米国債などの資産額を、今後は縮小させない(満期がきたら、新たに買い入れる≒FRBが資金を市場に放出する)方向へ転換することを示唆しています。

過去の景気後退期と金融緩和

図1では過去の景気循環(灰色の棒グラフは景気後退期)における、政策金利(青線)とダウ平均(赤線)の関係を示しています。特に2000年代以降2回の景気後退期において、FRBは機動的に政策金利を引き下げて対応してきたことがわかります。

ただし、実体経済に対する政策金利の引き下げ効果には遅れが生じるため、複数回・段階的に政策金利引き下げを行う必要があるようです。また、政策金利引き上げに転じるタイミングは、景気の回復を確認してから行うため、景気後退期の終了より遅れていることもわかります。

景気循環と実体経済

景気の先行指標として知られる*製造業購買担当者指数(図2 緑線)は、50を景気判断の境目とする場合が多いようです。

各景気後退期(灰色の期間)を確認すると、どうやら製造業購買担当者指数は景気判断の指標として有効であるようです。

*製造業購買担当者指数:
指定された月の製造業部門における事業環境の変化を示す指標です(今回の場合は米国の製造業部門)。この指標は、製造業部門の民間企業で働く購買管理者の月次調査に基づいています。

現在の製造業購買担当者指数は50超えの水準を維持していますが、下落傾向にあるようです。

これは多くのエコノミストが2019年後半から2020年にかけて景気後退期入りすると予想している理由の1つかもしれません。

ちなみに、製造業購買担当者指数が50を越えている状況からいきなり景気後退期入りしたケースとしては、70年代のオイルショック(図2 左端・灰色の期間)が挙げられます。OPEC(石油輸出機構)による減産声明がまさに「寝耳に水」であったことから、ほぼ時間差なしで急速に実体経済へ影響を与えたと言えるでしょう。

それでは、政策金利と製造業購買担当者指数との関連を見てみましょう。

すでに述べたように、政策金利引き下げの効果には遅れが伴うことから、製造業購買担当者指数の底打ち(≒景気回復の兆し)は、数回の政策金利引き下げを経てからのことが多いようです。

また、製造業購買担当者指数は景気の先行指標であるだけに、底打ちのタイミングも景気後退期の終了や政策金利引き上げのタイミングよりも早い時期となっていることがわかります。

今後の米国金融緩和再開見通し

金融緩和について、当面は新味のある材料は出てこない可能性が大きいと思われます。

したがって、緩和期待に沸いている現在の短期見通しと、中・長期見通しは分けて投資判断をする必要があるように思われます。

量的緩和(市場への資金供給)については、パウエルFRB議長が繰り返し示唆しているように、FRBの資産縮小の停止のタイミングが近いと思われます。

この政策には、発行額が増加傾向にある米国債などが、市場でダブつくことを部分的に緩和させ、長期金利の上昇をある程度抑える効果が予想されます。

ただし、FRBの取引先は銀行であり、買い入れの際に取引銀行へ支払われた代金はFRBの準備預金として戻ってくる仕組みとなっているため、厳密には「市場への資金供給」と言えるかどうか疑問が残ります。

質的緩和(政策金利の引き下げ)については、これもパウエルFRB議長の示唆する通り、「(利上げのタイミングを)辛抱強く待つ」状況が続くでしょう。FRBの法的使命は雇用と物価の安定にあり、今のところ雇用と物価の状況が悪化しているとは言えないためです。

このように、市場の金融緩和期待が実現するまでには、もう少し時間が必要であるように思われます。


(eワラント証券 投資情報室)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。