自動車関税回避でも安心できない?10月の為替報告書に注意

 米国で26日に行われた日米首脳会談では農産品や工業用品の関税に関する日米の物品貿易協定(TAG、Trade Agreement on goods)の交渉開始で合意し、懸案だった自動車に対する追加関税の発動は当面見送られる格好になりました。これを受けて27日の東京株式市場では相場全体が弱含む中で自動車株は堅調に推移しました。

トランプ大統領の狙いは通貨政策かも

 トランプ大統領が求めてきた2国間協議に応じることで追加関税の発動を回避できましたが、11月に行われる米国の中間選挙に向けた実績作りという点でトランプ大統領が強硬姿勢に転じる可能性は残っていると言えるでしょう。

 警戒すべきは、影響が自動車だけに留まらない10月中旬に公表される半期毎の為替報告書でしょう。通貨政策は通商問題と密接に絡んでいます。米財務省は対米貿易黒字が大きい日本や中国などを通貨政策における監視対象としており、4月の報告書では日本円に関して実質実効為替レートで見て2017年は過去20年の平均をおよそ25%下落したと指摘していました。

実質実効為替レートとは?

 実効為替レートとは特定の2通貨間の為替レートではなく、多くの通貨に対して円高なのか、円安なのかの指標のことです。さらに「実質」が付く場合は物価変動も考慮されます。日常生活で目にする為替レートは名目と呼ばれる為替レートです。

 例えば、名目の為替レートに変動がない場合に、日本の物価が低下して海外の物価が上昇すると海外製品が割高になって日本製品が割安になります。これは実質的に名目の為替レートが円安になって海外製品が高くなった場合と同じように考えることができます。このとき、実質為替レートは低下します。

 実質実効為替レートとは米ドルだけでなく多くの通貨に対して、物価の変動を考慮した為替レートで、上昇すれば円高、低下すれば円安に振れた場合と同じように考えることができます。

本当に実質実効為替レートで見ると円安が進んでいるのか?

 図は名目上の為替レートである米ドル対円相場と実質実効為替レートの推移を見たもので、1980年1月から2018年8月までの月次データを表示しています。名目の為替レートは数値が小さいほど円高、数値が大きいほど円安ですが、実質実効為替レートの場合は数値が大きいほど円高、数値が小さいほど円安と解釈されますので、図では名目の為替レートと比較しやすいように右軸の実質実効為替レートを上下反転しています。 名目の為替レートは1985年9月のプラザ合意以降、長期的なトレンドとしては円高傾向が続いています。一方で、実質実効為替レートはプラザ合意以前の水準を超えてきています。これは日本の物価が海外に比べて上昇しなかった時期が長かったこと、企業によるコスト削減が進んだこと、他国に比べて賃金が上昇していないことなどが要因として考えられます。

米国の対日交渉カードとして使われる?

 現在の米ドル対円相場は、1980年代前半の1ドル200円を超えていた時代に比べれは相当な円高水準ですし、長期的に見れば円高傾向にあります。しかし、実質実効為替レートはトランプ政権の対日交渉カードとして使われ、日本は円安の恩恵を受けている、ゆえに円高に誘導する通貨政策や金融政策を実行すべきだ、と今後の協議で圧力をかけてくるかもしれません。

 プラザ合意は米国のレーガン政権が貿易赤字を是正するため、当時、米国、英国、西ドイツ、フランス、日本で為替相場に協調介入し、為替レートをドル安に誘導することに合意したものです。トランプ大統領は比較されることの多いレーガン大統領を意識しているかもしれません。日本の自動車に追加関税の発動は見送りましたが、日本の輸出産業に影響の大きい為替レートに今後言及するかもしれず、10月中旬の為替報告書とその後のトランプ大統領の発言には注意をしておいたほうが良さそうです。

(eワラント証券 投資情報室長 小野田 慎)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。