裁定売り残検証

依然として米国株式市場は、ワクチン開発の進捗を伝えるニュースやマクロ指標で経済の立ち直りを示すデータに素直に反応する状態が続いている。

先週7月16日も米国6月の小売売上高が発表されたが、結果は前月比7.5%増と、極めて強い数字となった。さすがに、過去最大の増率となった前月の18.2%増には及ばなかったが、4月を100とすると、6月は計算上127.1にまで小売売上高が増加したことになる。

この6月の数字で驚いたのは、前年同月比でも1.1%増加しているということだ。“コロナの『コ』の字”も無かったときよりも強い数字が出たことは驚きに値する。そして、これは、これまでの財政支出という形で給付が行われた過去の景気後退期にはなかったことでもある。通常、「景気減速の警戒感から、補助・支給が行われても、(さすがのアメリカ人でも)“財布の紐”が固くなるものだが、今回は違っている。

これは、経済活動が再開した際に、なかなか外食産業の店員が店に戻ってこなかった理由として報じられていたが、通常の失業給付金に加えて特別上乗せ分が支給されていることにより、結果的に以前の平均週給を現在の週次の給付金が上回ってしまっているという状況が招いていると私は考えている。つまり、“身の丈(たけ)以上の消費”が行われてしまっている可能性があるのだ。

現在600ドルが週次の上乗せ分として払われていることが終わるのは7月末。それ以降、この反動減が出る可能性を覚悟しておかなくてはならない。

さて、先月の寄稿で、外国人の先物買戻しと裁定売り残の減少という需給要因が、日本株が堅調に推移していることの背景にあると述べたが、今月は後者のグラフを載せることとする。

これは裁定売り残の東証一部時価総額に占める比率と日経平均の推移を表したものだが、赤く囲った部分は2015年夏の上海ショック以降、その残高が東証一部の時価総額の0.1%を超えてピークアウトしたときであり、日経平均のグラフにおいてグレーで囲った部分は、その残高が減少していく際に日経平均が上昇したことを表している。

その裁定売り残であるが、今回は、(前回の寄稿で述べたように)5月22日の時点で東証一部の時価総額比で0.46%(金額ベースで2兆5707億円)と、過去最高水準にまで増加し、それが直近のデータである7月10日時点で0.31%にまで減少したものの、金額としては1兆8233億円も残っている。

通常、注目されるのは同じ裁定取引の裁定買い残の方であり、これが膨らんだ後は、その解消売りが指数の押し下げ要因として働くのがこれまでの歴史であった。しかし、その裁定買い残は7月10日時点で3184億円しかなく、圧倒的に裁定売り残の方が多い。あまり耳馴染みの無い言葉かもしれないが、「解消買い」という指数の上昇要因である需給材料が、今後、新聞紙上に載るかもしれない。


(スプリングキャピタル株式会社 代表取締役社長 チーフ・アナリスト 井上 哲男)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。