金相場と米国長期金利の逆相関
金相場は昨年末から上昇基調に転じています。一般的に金にはインフレヘッジの効果があるとされているので、金相場の反転は世界経済を牽引する米国においてインフレが加速する懸念から生じているという意見もあるようです。
しかしながら、インフレヘッジとしての効果が金にあるかという議論については、必ずしもそうとは言えないという実証研究※もありますし、トランプ政権の元でインフレが加速するのであれば11月の米国大統領選挙後に反転してもよかったはずです。
インフレ懸念は最近の金相場の反転を説明する大きな理由ではないかもしれません。
一方で、直近の金相場は米国の長期国債利回り、いわゆる米国長期金利と逆相関(反対の動きをする傾向があること)になっているという指摘もあります。そこで2016年初から直近までの金相場と米国長期金利の関係を見てみたところ(図1)、確かに逆相関の関係が見られました。
金相場と米国長期金利に逆相関の関係があるとして、その原因は何でしょうか?
米国の金利が低下すると米ドルを保有して金利収入を得るには魅力が落ちることになるので米ドル安になる、という考え方もあるかもしれません。
この見方によれば、「昨年前半の金相場の上昇はFRBによる追加利上げが緩慢になるという見方から米ドル安基調にあった。昨年後半から徐々に追加利上げが意識され、さらにトランプ氏が大統領選挙に勝利したことで米ドルの上昇に弾みがついた。」という説明になると思われます。
そうであるなら金相場の決定要因は米ドルにあるのかもしれません。そこで図2において金相場とドルインデックスの関係を見てみました。
金相場とドルインデックスはおおよそ逆相関にあるように見えますが、昨年の夏には金相場もドルインデックスも上昇している局面があり、金相場と米国長期金利ほどの強い逆相関は見られません。
どうやら米ドルと金の選好問題よりも強い要因が他にあるのでは、と考えられます。ところで、米国長期金利の低下は米国債が買われたこと、米国長期金利の上昇は米国債が売られたことに他なりませんので、金相場の上昇と米国債の上昇、金相場の下落と米国債の下落がそれぞれ同時期に発生していたことになります。
逆相関の背景を探るには金と米国債の需給面に注目したほうが良さそうです。
※Claude B. Erb, Campbell R. Harvey [2013] ”THE GOLDEN DILEMMA,” NBER WORKING PAPER SERIES
米国長期金利上昇の背景に中国にあり?
昨年の夏以降、米国債を売却していたのは主に誰なのかと言うと、当時米国債の最大保有者であった中国だと考えられます。
中国は自国通貨の人民元の下落を止めるため、保有している米国債などの外貨準備を売却して人民元を買うという市場介入を行ってきたと見られています。
人民元安の背景としては中国では直接投資のマイナス傾向が続いており、資本流出が止まっていないことや、米国の追加利上げ観測が挙げられます。
図3では米国長期金利と中国の外貨準備の推移を見たものですが、中国の外貨準備が大きく減っている昨年の11月に米国長期金利も急上昇しています。
今年1月のデータはまだ公表されていませんが、米国長期金利が低下傾向にあるので1月は外貨準備の急減は発生していないのかもしれません。
また、中国の外貨準備の中には金準備も含まれていることには注目です。外貨準備の減少が続く中国ですが、実は昨年の前半までは金準備は増やしていました(図4)。
金準備を増やしていた時期は金価格も上昇傾向にあり、昨年後半から金準備が減少に転じると金価格も下落したのです。今年の1月からは金相場は持ち直しているので、中国は金準備を再び増やしているかもしれません。
金相場にもeワラントで投資ができる
以上のように金相場と米国長期金利の逆相関の背景には、中国による外貨準備の取り崩しが大きく影響しているものと考えられます。
この前提であれば、人民元の下落圧力が今後も続くか、という点が金相場を考える上で重要になります。
中国経済を支えているのは貿易ですが、先週発表された貿易収支は黒字ではあるものの縮小傾向が止まっていません。
さらに追い討ちをかけるのがトランプ政権における対中貿易政策です。中国にとって米国は最大の輸出先であり、米国が保護主義に走れば中国の経済状況の悪化は避けられないでしょう。
人民元の下落圧力も強くなりますので、中国当局は外貨準備の取り崩しをして米国債と米ドルを売って人民元を買うという行動を続けると思われます。
金準備も売られる懸念がありますが、昨年前半のように外貨準備が減少する中で金準備を増やしたこともありますし、中国の外貨準備における金準備の割合は非常に小さく、一定量の金準備は必要と考えられることから米国債ほどの下落圧力は発生せず、むしろ金相場の上昇と長期金利の上昇が同時に発生し、金相場と米国長期国債の逆相関の関係が崩れる可能性もあるかもしれません。
金相場にはeワラントを利用して投資することができます。取引単位は1,000単位ですので、取引価格×1,000が最低投資金額となります。金相場の上昇を前提とするならば、例としては次のような銘柄があり、1万円もあれば投資が可能です(一部の銘柄を除きます)。
金リンク債 プラス5倍トラッカー 7 回
金リンク債 プラス5倍トラッカー 8 回
金リンク債 プラス5倍トラッカー 9 回
金リンク債 コール229回
金リンク債 コール224回
金リンク債とは金相場に連動することを目的に発行された債券です。また、対象となっている金リンク債は1グラム当たりの円換算ベースですので、為替変動の影響を受けることにご注意ください。
(eワラント証券 投資情報室)
※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。