需給分析上、極めて不思議な「金」だが・・・

 海外出張といえば、ヘッジファンドや海外投資家に会いに行くのがその主な目的であるため、勢い、香港とシンガポールを訪れた回数が突出しているが、香港に行くと、かつて必ず訪れていた場所があった。それは、銅鑼湾 (コーズウェイベイ)にある、「そごう(崇光)百貨店」の金売り場である。

 リーマンショックの翌月である2008年10月。一時的に世界の株式指数は戻したものの、また月末にかけて大きく下落した際に、私は週末に同所を訪れた。その目的は無論、金を買うためではなく、賑わいを見るためである。金売り場の前には、かなりの数の接客を待つための椅子が用意されているが、それも一杯で、番号札を持った人がひしめくように立っているのを見て、「リスクオフとはこのようなことなのだ」と実感したものである。

 その「金」であるが、需給分析を行っている者にとって、それは非常に不思議で、しかし、価格動向については、比較的予想が簡単な商品であると言える。 これは、毎週CFTC(米国商品先物取引委員会)が発表している「投機筋(大口)」の先物ポジションと金の先物価格の推移を示したものであるが、これだけを見ると、買い玉増加とともに価格が上昇するという、原油などと何も変わらない状況であるように映る。

 しかし、これに、同じく発表されている「商業(筋)」の先物ポジションを加えてグラフにすると次のようになる。 これは、非常に奇妙である。
 緑の矢印と赤の矢印を見ると、「投機筋+商業」のポジションが、買い戻されたり、買い超に転じていく際に金の先物価格が下落し、逆の時に、価格が上昇していることが分かる。

 この「謎」を解く鍵は、「投機筋」は常に「買い超」であり、「商業」は常に「売り超」であるということにある。そして、その手仕舞いに『時間差』があることが、この奇妙な現象の理由であろうと考えている。
 買い超の投機筋はやや焦り気味にポジションを手仕舞い、それによって、価格が十分下落した後に、ゆっくりとヘッジの手仕舞いとして商業は売りポジションを閉じるのである。

 それでも、一箇所だけ、紫の矢印で示した時間帯だけは、「買戻し」と「価格上昇」という、通常であれば“当たり前のこと”が起きている。
 これは、金価格と密接な関係にあるもうひとつのファクターである「ドル・プライス」で説明できる。 これは、予め断っておくが「ドルインデックス」ではない。
 ドルインデックスは意外と皆、気軽に引用しているが、2国間貿易量が関連するため算出に手間取り、公表している情報ベンダーの許諾なく勝手に使用できるものではない。そのため、これは単に、2009年末のドル円とユーロドルを基に、組入れを50%ずつにした単純なドルインデックスを作成したものである。(これにポンドとカナダドルを加えれば、ドルインデックスの95%程度を説明できる)

 一目瞭然で単純ドルインデックスと金価格に(逆)相関が強いことが分かる。矢印を示した部分が、その前のグラフにおける紫矢印の時間帯である。何も不思議はないのだ。
 まず、単純ドルインデックスを見ること、そして、「投機筋+商業」のポジション動向を見ること、この2つで金についてはその価格動向を予想できることがお分かり頂けたかと思う。

(スプリングキャピタル株式会社 代表取締役社長 チーフ・アナリスト 井上 哲男)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。