防衛費増、原発推進
年末のこの時期になると投資家の多くは「本年の振り返り」そして「次年の相場を探る」という視点になるだろう。もちろん本稿でもそれを取り上げていきたい。
まず、岸田内閣の動きが「政策大転換」が連発され、急になっていることから国策に関連する銘柄に注目していきたい。政府は2022年12月16日に閣議決定した「防衛力整備計画」で、今後5年間の防衛費を計43兆円とした。前回の計画の1.5倍以上で、歴史的な防衛費増額となった。過去にも防衛費増額が取りざたされたことがあるが、国民のコンセンサスが概ね形成された上で大規模増額が達成されたことはない。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、依然続く中国の海洋進出、北朝鮮による頻繁なミサイル発射など、日本の安全保障に対する危機感を反映したものと理解される。アメリカ製の巡航ミサイル「トマホーク」の購入も決まり、増額された防衛費の相当部分は米軍需産業に流れると見られるものの、国内企業でも防衛省・自衛隊の装備品に関する企業は多い。以下3銘柄(すべて総合重機メーカー)はその筆頭と目される。



どのくらいの規模かは明らかではないものの、例えば「三菱重工業(7011)」については年間売上高(約4兆円)の10-15%程度が防衛省・自衛隊に絡むものではないかとされている。株価は2022年初比約2倍まで買われていることからも、投資家の関心が高いことがわかる。2023年も防衛費大幅増額が材料視されることだろう。
岸田首相による「検討指示」から約4カ月、「原発政策大転換」も決まった。2022年12月22日、政府は脱炭素などに向けて原発を最大限活用するための行動指針をまとめ、原子力発電所について、建て替えを進め、運転期間も実質延長するなど、福島事故以来の抑制的な原子力政策を大きく変え、原発を使い続ける方針が明確にされた。新たな基本方針では、安全に留意しながら原発再稼働を進めるとしたうえで、廃炉になる原発の建て替えを念頭に、次世代型の原子炉の開発と建設を進めるほか、最長で60年と定められている原発の運転期間については、審査などで停止した期間を除外し、実質的に上限を超えて運転できるようにするなど、最大限活用する内容だ。この背景には「電力不足(=停止していた火力発電所を稼働させることでなんとか対処してきた)」と「電気料金高騰(=原油・天然ガスなどエネルギー高)」があることは言うまでもない、安定的な電力の供給と電気料金の大幅な変動を抑えるため、さらにクリーンエネルギー社会実現のため政策が大転換された。この動きにすぐに反応したのは「電力株」だ。原発活用が進むと電力会社の収益環境は改善とされると考えられている。
・東京電力ホールディングス(9501・プライム)

・関西電力(9503・プライム)

・東北電力(9506・プライム)

過去において電力株はボラティリティが低いことから、個人投資家からの注目を集めることは少ない印象だ。しかし、原発政策の大転換を背景に株価が急動意したことは事実、2023年にはこれまで見られなかった電力株への注目が高まる可能性もあるだろう。
リオープニング、日銀金融緩和修正
さらに指摘しておきたいのは、やはり「コロナ禍からの経済活動再開」だろう。2022年に上昇が見られた小売りサブセクターには「百貨店」がある。広く消費が回復すると見られており、政府が訪日外国人の水際対策を緩和したこともインバウンド消費回復の期待につながり、株価の後押しとなったものだ。
・三越伊勢丹ホールディングス(3099・プライム)

・高島屋(8233・プライム)

・J.フロント リテイリング(3086・プライム)

百貨店は平成バブル崩壊後から「斜陽産業」とされ続けていた。専門店、安売り店、コンビニなどにも押され、株式市場ではほとんど話題にならない時が続いた。
しかし、このコロナ禍からの経済活動回復のタイミングで株価は大幅な上昇を見せている。このことからはインバウンド消費も含め、高額品の購買意欲も高まるものと読める。
最後に、「銀行株一斉高」についても言及しておかなければならない。当欄では2022年10月31に「眠れる『金融セクター』の動意はあるか?」として、銀行株を取り上げていた。

・三井住友トラスト・ホールディングス(8309・プライム)

・コンコルディア・フィナンシャルグループ(7186・プライム)

その後の2022年12月20日、日銀がサプライズ的に大規模金融緩和の修正を決定、それを受け銀行株が一段高となった。今回の日銀の修正はイールドカーブコントロール(長期金利の誘導水準を定め、国債買入れを実施すること)の運用見直しで、具体的には、国債買い入れ額の増額(月間7.3兆円→9兆円程度)と、長期金利の変動幅を従来の「±0.25%程度」から「±0.5%程度」へ拡大(金利上昇を容認ともとれる)するものだ。金融マーケットはこの修正を「事実上の利上げ」ととらえ、金利上昇が収益改善につながるとされる銀行株に大きな反応が見られた。今後さらに修正が加えられ、ついには2013年から続いていた金融緩和が終焉することも想定しておきたい。修正が加えられる度に金利が上昇し、銀行株を後押しする可能性がないわけではない。
ここまで、本年の動きを踏まえ、2023年に注目されそうな銘柄を紹介してきたが、いずれも株式市場では「古参銘柄」だ。長く「割安」が指摘されていたものもある。それらの株価に急動意が見られていること、逆に、割高とされたグロース株の上値がいつまでも重いことにもピンときたい。政策大転換(コロナ、金融政策含む)を経て、東京市場の物色もこれまでと大きく変化し、価値を失っていた「昔の銘柄」が復活するかもしれない。
*2016年11月に始まった小生の記事は今回をもって休載となります。これまで有難うございました。
(株式ジャーナリスト 天海 源一郎)
※本稿は筆者の個人的な見解であり、カイカ証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。