3つの『時間軸』の短縮

 前回、9月20日の寄稿において、25日移動平均乖離率を応用した過去のパターンから、日経平均の上値メドとして、2万4,248円という数値を示したが、実際に日経平均は10月1日に2万4,245円、翌10月2日に2万4,270円で引けた後に下落基調に転じることとなった。

 その後、10月10日に米国ダウが831ドルも急落したことが引き金となり、世界的に株式市場が不安定な状態となっているが、今年に入ってから米国市場がテクニカル的に見て大きな下げに見舞われたのは、これが3回目である。

 その理由であるが、最初である今年2月の急落は、(2月の寄稿に記したように)昨年来、「ゴルディ・ロックス相場」と呼ばれた低いボラティリティ相場が継続したことと、今年に入り、1月26日までに11回も史上最高値を記録した“急ピッチな上昇”という、2つの反動が招いたと考えられ、3月末の急落は、米国トランプ大統領による対中国の追加関税報道であったが、今回は、米国の10年国債利回りが、それまでの3%水準が、3.2%水準にまで急上昇したことが挙げられる。

 しかし、今回の米国10年国債利回りの上昇は、ある意味で“必然の結果”と言える。
 9月FOMCにおいて、事前の予想通り利上げが行われたが、今後の利上げに関する当局のコンセンサスは、今年があと1回、来年が3回、そして2020年が1回というものであった。このコンセンサス自体はこれまでと変更がないものの、利上げ開始からこれまでの時間の経過により、利上げ終了までの『時間軸』が短くなっていることは確かであり、現在のFF金利の誘導目標が2%から2.25%であるということは、これまでのように、利上げが0.25%の幅で行われれば、再来年の早い時期に、このFF金利の誘導目標が、3.25%から3.5%に引き上げられるということになる。

 そうなった場合、現在の米国2年国債利回り、10年国債利回りともに、現在の水準よりも高くなっていることは、ある意味で“必然”と考えられる。米国には、短い金利の方が長い金利よりも高い、いわゆる「逆イールド」の状態が、その後、深刻な景気の悪化を招いた歴史があるからだ。また、現状、1年半後の金利体系が、足元から10年まで全て3%程度でフラットな状態でいることは想像できない。 これは、日米の2年国債、10年国債の利回りGAP(ギャップ)とドル円の推移を示したものであるが、日本の2年物、10年物国債の利回りが極めて低いことを考えると、このギャップの接近は、そのまま米国の2年国債、10年国債の利回りが接近していることを表している。この点からも10年国債の利回り上昇は、“やむにやまれず”というものだったと言える。

 今年に入ってからの相場の特徴は、株式指数、外国為替ともに「新興」と呼ばれるものが弱含んでいるということである。そして、この理由の1つに米国の金利上昇が含まれることは間違いない。

 リーマンショック後、世界経済の復活は中国を含む新興国が担ったが、当時5兆ドル程度であった(米国以外の国の)ドル建債務(銀行貸出、債券の合計)は、昨年末時点でちょうど2倍の10兆ドルを超えたというデータがある。債務国が受ける米国金利上昇の影響度は当時よりはるかに大きいものとなっているのだ。
 現在、これら新興国は、米国金利の上昇による債務金利の上昇、そして、通貨の下落という要因により、輸入インフレと戦う形での利上げを行っているが、これは、米国の好景気による利上げとは全く違ったものである。

 リーマンショック後、新興国の景気復活が米国に好影響を与えるまでにタイムラグがあったように、これら新興国の景気悪化が米国に負の影響を与えるのにも時間がかかる。これもまた『時間軸』と呼ぶのであれば、今回、それまで相対的に堅調であった米国、日本の株式市場までもが米国の金利上昇による影響を受けたということは、市場がこの『時間軸』が短くなっていることを意識し始めたのだと考えることができる。
 これは、これまで、相場の注目点が、米国のマクロ経済の好調さ、前年同期比20%程度の大きな増益を稼ぎ出しているS&P500社の四半期決算といった、利上げの“根拠部分“であったものが、その”影響部分”に視座が替わりつつあるということだ。

 そして、短くなっている3つ目の『時間軸』を意識させるものが発表された。
 それは、中国政府が先週末の10月19日に発表したこの7~9月期の国内総生産(GDP)である。7月、8月のファンダメンタルズは米国関税引き上げ前の“駆け込み”要因で堅調に映っていたが、実際に発表された数字は、警戒感を持って示されていた市場の予想さえも下回るものとなった。これもいずれ、米国に“還流”するものである。
 3つの『時間軸』の短縮。今回の下落が教えていることは、このことなのかもしれない。

(スプリングキャピタル株式会社 代表取締役社長 チーフ・アナリスト 井上 哲男)

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