CO2 (二酸化炭素)の地下貯留というアイディア

2015年のパリ協定を踏まえて、国際社会が2050年までに80%の温室効果ガス排出削減を目指す地球温暖化対策計画(2016年)が発表され、それに沿って日本も2020年10月、菅首相が所信表明演説の中で「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。2021年10月には政府がエネルギー基本計画、地球温暖化対策計画などを改定し、CO2排出ゼロに向けた取り組みが始動しています。

カーボンニュートラル達成に向けて、太陽光や風力を利用した再生可能エネルギーを使って発電した電力を二次電池に蓄えて利用したり、水素やアンモニアを生成して燃料として利用することに加えて、原子力を活用して発電効率を上げること等が具体的な動きとして挙げられます。ただ、化石燃料を使わざるを得ない発電、天然ガス採掘分野、化学工場などではCO2を直接回収・貯留するシステムを通じて、温室効果ガスの排出を防止するといった対策をとる必要があります。そこで注目されるのが今回のテーマである、発生したCO2を大気中から回収し、地下や海底、海中に送り込んで貯留する技術です。

「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)」と呼ばれるシステムがそれで、化石燃料を使った発電所や化学工場から排出されるガスを使ってCO2を分離、地下深くに貯留・圧入する技術となっています。一口に「CO2を回収」といっても、個体吸着剤に吸着させる方法や吸収液に溶解させる方法、特殊な膜でCO2だけを透過して分離するような様々な方法があります。また、貯留方法にもCO2が漏れにくい地層を選んで圧力をかけて封じ込める方法や深い海底でCO2が安定した状態でとどまる性質を利用して貯留する方法、水深1,000メートル以上の海中においてCO2を海水に溶かす方法(炭酸水のイメージが近い)などがあります。

国内では2012年から北海道室蘭で実証試験が行われ、CCSの有効性が確認されています。資源エネルギー庁によると、日本の沿岸には約1,500億~2,400億トンのCO2を貯留できる可能性があるとされています。ただ、開発やシステムの導入に際して、複数の省庁をまたいだ許認可が必要となり、法整備の複雑さが大きな足かせとなっているようです。現在、欧米中心に135か所の商業用貯留施設が稼働していて、その容量は年4,000万トンに達していますが、2050年のCO2排出ゼロを目指すには年50億トンを貯留する必要があり、まだまだ拡大普及させていかなければなりません。

直近では2月9日に、INPEX(1605)が水素・アンモニアの生産など脱炭素分野に2030年までに最大1兆円を投資すると発表しました。2月8日には、同社が豪州沖合で天然ガス開発を行っている「イクシス」事業で、採掘されるガスと一緒に排出されるCO2を回収・貯留する設備を導入し、それに最大1,000億円を投じると日経新聞が報じています。同報道によれば、早ければ今年中に貯留地の選定を始めて、26年にも貯留を開始するようです。また、他の地域のプラントや発電所で発生したCO2も海上輸送によって受け入れることを検討しているとのこと。ちなみに、商船三井(9104)はマレーシアの石油大手メトロナスと液化二酸化炭素の海上運搬用船舶を開発することで、検討に入ったと報じられています。

日本企業ではこのほか、ENEOS(5020)傘下のJX石油開発がマレーシアで実証実験を計画しています。また、実証実験で日揮HD(1963)は地上設備の設計や運転技術を、石油資源開発(1662)は井戸の掘削などを担当しています。三菱重工業(7011)は米国でCO2回収設備の納入実績があるほか、川崎重工業(7012)は関西電力の発電所にCO2回収設備を納入しています。さらに、東レ(3402)はCO2回収に必要な高機能膜の開発を行っており、今後の需要拡大が期待されます。相場の落ち着きが前提ではありますが、今後物色の波がやってくる可能性のあるCCSについて調べてみてはいかがでしょうか。


(カイカ証券)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、カイカ証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。