FinTechと法律①仮想通貨(4)ICOを巡る法規制の動向

 仮想通貨に関して最近大きな注目を集めているのは、イニシャル・コイン・オファリング(Initial Coin Offering)、いわゆるICOです。ICOとは、企業などが仮想通貨(トークンとも呼ばれます。)を発行し、それを販売することで資金を調達する手法です。企業が証券取引所に株式を上場するにあたって株式を発行し、募集することをIPO(Initial Public Offering)と呼びますが、ICOは、株式ではなく、議決権等の権利を有しない仮想通貨を発行・販売する点がIPOと異なります。ICOの場合には、企業にとってはその株主の構成を変えることなく、資金を調達することができることになり、たとえば創業者のみが株式を保有するスタートアップ企業がその支配権を維持したまま資金調達をしたい場合等には有力な選択肢となると思われます。

 米国では、こうしたICOに対する法規制についての議論が進んでいます。米国証券取引委員会(SEC)は、2017年7月25日付で、The DAOという仮想通貨のICOと米国証券規制との関係に関するレポートを公表しました(https://www.sec.gov/litigation/investreport/34-81207.pdf)。このレポートでは、The DAOは、米国証券規制における「証券」に該当し、米国証券規制の適用を受けることとされました。具体的には、The DAOのICOを行うためには米国証券取引委員会への登録が必要であること(これは、詳細な情報の開示が必要になることを意味します。)、またその取引は国法証券取引所(具体的にはNASDAQやニューヨーク証券取引所等を指します。)で行われなければならないことが指摘されています。このレポートはThe DAOという仮想通貨に関する検討であり、仮想通貨一般についての米国証券取引委員会の判断ではありませんので、具体的な事例次第では仮想通貨は「証券」には該当しないとされる可能性もあるものと思われますが、一般的には、このレポートを受けて、米国では、仮想通貨は「証券」に該当し、そのICOは株式のIPOと同じような厳格な規制を受ける可能性が高くなったと考えられています。

 これに対して、日本においては、現時点では、金融庁はICOの法規制について指針を示していません。日本において最も重要な論点は、米国での議論と同様に、仮想通貨が金融商品取引法上の「有価証券」に該当するものとして、金融商品取引法の規制を受けるか、という点です。より詳しくいうと、仮想通貨が「有価証券」とみなされる金融商品取引法2条2項5号で規定される集団投資スキーム持分に当たるかという点が問題となります。仮に仮想通貨が「有価証券」(集団投資スキーム持分)に当たり、金融商品取引法の適用を受けることになると、その仮想通貨の発行者は、ICOの前に原則として仮想通貨及びその会社自体について詳細な情報を投資家に開示する必要があることになり、また、仮想通貨の投資家への販売や仲介は金融商品取引業者が行わなければならず、さらにその仮想通貨の取引市場は原則として認可を受けた金融商品取引所でなければならないことになります。

 この点に関して、金融商品取引法では、①「出資又は拠出をした金銭(これに類するものとして政令で定めるものを含む。)を充てて行う事業…から生ずる」②「収益の配当又は当該出資対象事業に係る財産の分配を受けることができる権利」に限り、「有価証券」とみなすとされています(金融商品取引法2条2項5号)。より簡略化していうと、①投資家から出資・拠出された金銭等を事業に用い(要件①)、②投資家がその収益を配当・分配を受けることができる場合(要件②)に限り、投資家の有する権利が「有価証券」とみなされます。したがって、収益の配当・財産の分配の権利を伴わない仮想通貨は、要件②を満たさないため「有価証券」には該当せず、金融商品取引法の規制を受けないと考えられます。これは、2017年6月8日の参議院・財政金融委員会における、ICOに関する質疑応答とも整合します。すなわち、金融庁(政府参考人)は、当該財政金融委員会において、「出資等をされた資金を用いて事業を行い、その事業から生じる収益の配当等を受けることができる権利を仮想通貨として販売するといった場合には、一般に金融商品取引法に定めます金融商品取引業に対するルールが適用されることが考えられようかと思います。」と述べています。これは、要件②との関係で、収益の配当・財産の分配の権利を伴う仮想通貨は「有価証券」に該当し、そうした仮想通貨のICOの場合には金融商品取引法が適用されることを示したものと考えられ、(その反対解釈として)収益の配当・財産の分配の権利を伴わない仮想通貨は「有価証券」に該当せず、金融商品取引法の適用を受けないことを示唆するものと考えられます。

 さらに、ICOで発行される仮想通貨の払込みは円などの法定通貨ではなく、ビットコインなどの他の仮想通貨である場合も多くあります。この場合は、要件①との関係で、ビットコインなどの他の仮想通貨は「出資又は拠出をした金銭」には該当しないと考える余地があります。なお、金融商品取引法2条2項5号では「これに類するものとして政令で定めるものを含む」とされていますが、仮想通貨は政令で定められていません。したがって、現状の法規制のもとでは、ビットコインなどの他の仮想通貨を払込みの対価とするICOは、その発行される仮想通貨が収益の配当・財産の分配の権利を伴わないものであるか否かにかかわらず、その対象となる仮想通貨は「有価証券」には該当しないと考える余地があると思われます。

 以上のとおり、日本においてICOの対象である仮想通貨が「有価証券」として金融商品取引法の規制を受けるケースは限定的と考えます。

 なお、上記は金融商品取引法との関係についての説明ですが、これとは別に、ICOにつき資金決済に関する法律が適用される可能性はあります。すなわち、以前のコラム(FinTechと法律①仮想通貨(2)法規制)で説明したとおり、改正された資金決済法では、「仮想通貨の売買または他の仮想通貨との交換」を業として行う者は金融庁・財務局への登録が必要です。したがって、仮想通貨の発行者は、ICOに際してそのような行為を行っているものとして、登録が必要になる可能性があります。

(アンダーソン・毛利・友常法律事務所 パートナー 弁護士 樋口 航)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、筆者の所属する組織およびeワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。