6月15日、16日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)では、政策金利を0~0.25%に据え置き、量的緩和の国債買い入れペースも月額1,200億ドルを維持することを決定した。市場が「テーパリング」と「利上げ時期」に注目するなか、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、量的緩和策の縮小について議論を開始したことを明らかにしたほか、これまで2024年以降としていた実質的なゼロ金利解除時期を、2023年に前倒しする見通しを示した。
2カ月ぶりに行われたFOMCだったが、5月に発表となった経済指標は、新型コロナウイルスのワクチン接種拡大に伴って経済の正常化が一段と進んだことを裏付けるように、消費者物価などでインフレを意識させる内容が目立った。米10年債利回りも再び1.7%台を付けるなど、早期の利上げ警戒感が高まりつつあった。パウエル議長は予想を上回る経済指標の上振れに、一時的なものとの見解を示してきたが、6月に入って経済指標も落ち着き、長期金利の低下傾向も見られていただけに、今回のFOMCの結果はやや意外感をもってマーケットに受け止められたようだ。
声明文では、インフレ率の上昇は一時的な要因を反映したものとして、従来のスタンスを維持したものの、景気認識については強さが増したとの見方を示した。また、量的緩和についても雇用と物価の目標に一段と大きく前進するまで継続するとの考えを改めて示した。ただ、ドットチャート(※FOMCメンバー達の政策金利予想のこと)からもわかるとおり、2022年末までに少なくとも1回の利上げが必要と答えた参加者は3月の4人から7人に増えた。中央値は前回同様現状維持だが、「2023年末まで」では現状維持が11人から5人に減り、少なくとも1回の利上げを容認する参加者は7人から13人に増加し、中央値も現状維持(0.0~0.25%)から2回の利上げ想定(0.5~0.75%)に切り上がった。
また、参加者の経済見通しも2021年の実質GDP成長率が前回3月の6.5%から7.0%に、インフレ率が2.4%から3.4%にそれぞれ上昇する見通しとなり、足元の経済活動の再開を織り込む形となっている。その後、2023年には実質GDP成長率が2.4%(3月は2.2%)、インフレ率が2.2%(同2.1%)に落ち着く見通しで、失業率もコロナ前水準である3.5%に低下すると見込んでいる。米国株式市場はこうしたタカ派的な姿勢を嫌気して、6月16日のNYダウは265ドル安となり、その後18日までの3日間で1,000ドル強下落した。しかし、18日までの10日間で1,466ドル下落していたこと、18日は日本のメジャーSQに相当する「クアドラプル・ウィッチング」で値動きが荒くなったことなどから、週明けのNYダウは大きく反発。長期金利の落ち着きからハイテク株に物色が戻り、NASDAQ指数は史上最高値を更新した。
経済正常化のスピードは、新型コロナウイルスのワクチン接種率の伸び悩みや変異株の拡大などから今後鈍化する可能性があろう。利上げ圧力は徐々に後退し、いわゆる適温相場がいましばらく続くといった見方も増えつつある。一方、マーケットはインフレ圧力に敏感になっており、政策当局者の発言を常に気にしている。いつまたボラティリティが高まるかわからず、戦々恐々としているような格好だ。パウエル議長は来年2月に任期満了となるが、少なくともそれまではマーケットとの対話を重視しつつ、難しい政策運営を迫られることになろう。来年2月に再任されるかどうかは、それまでの手腕次第ということになるかもしれない。
(eワラント証券)
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