6月11日から13日までの3日間、英国のコーンウォールでG7サミットが開催されました。対面形式で行われるのは実に2年ぶりのことです。首脳たちは皆、新型コロナワクチンを接種済みなのか、ノーマスクで、記念撮影や討議に臨みました。感染拡大が続く中で、和やかさの中にもやや緊張感が漂う雰囲気が感じられました。そして、安倍首相時代は米トランプ大統領とともにG7の輪の真ん中にいた日本ですが、今回、菅首相は対面では初参加となるため、「奥ゆかしさ」からなのか、緊張からなのか定かではありませんが、遠慮がちに振舞っていたのが印象的でした。
何が採択されたのか?
今回の首脳宣言では、新型コロナワクチンの供給拡大や景気刺激策の継続、環境と気候変動対策、世界的に公正な課税システム、民主主義の尊重などが採択されました。まず、新型コロナの感染拡大を抑止するため、ワクチンを可能な限り多くの人々に、速やかに接種させることができるよう国際的な取り組みを始めるとともに、10億回分を発展途上国向け中心に供給することで合意し、2022年中のパンデミック終息を目標に設定。また、次なるパンデミックに備えて、ワクチン等の開発サイクルを短縮していくことや原材料、検査、治療、防護具などの供給ネットワークを確立するとともに、経済を再活性化させるための雇用創出、インフラ投資、イノベーションの推進などの支援策を継続していくことを盛り込んでいます。足元ではインド型変異株(デルタ株)の感染拡大によって、英国もイングランドでのロックダウンの最終段階解除を1カ月延長する事態になっており、米国でも感染再拡大が懸念されています。日本においても、既にインド型変異株はある程度確認されており、ワクチン接種の加速によってようやくコロナ禍終息の兆しが見えてきたものの、暗雲が立ち込めています。
一方、環境と気候変動対策では、2030年までのCO2排出量半減(2010年比)、2050年までのネット・ゼロにコミットし、世界的な気温上昇を1.5度に抑えるグリーン革命を推進。また、2025年までに年間1,000億ドルを排出削減支援や温暖化対策に拠出することも確認しました。世界的に企業ベースの取り組みも活発になっており、グリーンビジネスの拡大が期待されそうです。サプライチェーンの確保では安全かつ強靭で持続可能なサプライチェーンを確立するとともに、あらゆる強制労働の根絶を目指すとしています。こちらは、新疆ウイグル問題を強く意識したと見られる内容で、これを受け国内繊維メーカー等は新疆綿の使用中止を決めています。先にコミットメントされた法人国際最低税率(15%以上)については、7月のQ20財務相、・中央銀行総裁会議での合意を目指します。
G7でも対中政策が議題に
そして、今回最も注目されたのは、先にも少し触れた通り、「対中国政策」が盛り込まれた点と言えるでしょう。就任以降、対中国強硬姿勢を続けているバイデン大統領が主導する形で、非市場志向の政策や慣行への対応、新疆ウイグルや香港での人権問題、さらに台湾海峡の平和と安定を求めるとともに、菅首相もインド太平洋地域の安定で主導的立場を示していくとしました。また、中国が進める「一帯一路」構想に対抗するため、インド太平洋地域とアフリカで協働していくことを確認しています。一方、首脳宣言に対して中国は内政干渉だと従来の姿勢を貫きましたが、環境分野では協力姿勢を維持していく考えです。
G7声明にはロシアや北朝鮮をけん制する内容も盛り込まれましたが、バイデン大統領はG7後にロシアのプーチン大統領と早速会談し、緊張緩和を模索する戦法に打って出ました。さらに、対面での米中首脳会談も10月のG20にあわせて実現の可能性が出てきています。コロナ禍の混乱の中でやや影が薄くなりがちな問題ではありますが、両国の緊張緩和が進むかどうかは、世界経済に与える影響も大きいだけに、外交面での最大の関心事になりそうです。

(eワラント証券)
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