M&Aで起こる「のれんの減損」~第1回「のれん」とは?

 近年では国内、海外を問わず日本企業による活発なM&Aの情勢が続いているようです。ロイターの調査によれば、日本企業による2016年のM&A公表案件は過去最高でした 。日本の将来的な人口減が避けられない情勢では、海外市場に目をつけてのM&Aによる国外進出や、国内の企業同士の合併などによるスリム化は自然な流れとも考えられます。ところで、「M&A」と聞くと、特に買収をする側の企業に対しては新規事業への進出やシェアアップを狙った積極的な事業展開を進めている、というポジティブな印象を持つことが少なくないのではないでしょうか。
 一方で、大型買収を発表した企業が数年後に「減損」と呼ばれる会計処理を行うというニュースもよく耳にします。この減損は、買収の前に期待していた通りの結果にならず、M&Aの「失敗」を示すひとつの具体例ともいえます(もちろん、減損に至ったすべてのM&Aが失敗であったと考えるのは早計です)。
 一般的なニュースでは、M&Aが発表されたときと減損処理を実施するとき、いわば最初と最後だけが伝えられることが多いように感じられます。そこでM&Aを行った企業が、減損に至るまでの一般的な流れについて、会計処理を中心にできるだけ会計の知識がなくともわかるように解説します。

 まず、企業買収が行われると「取得価額の配分」が行われます。会社を買うために支払った金額を具体的な資産にあてはめていくイメージです。
 個別の資産、たとえば土地を買った場合には、たとえば「1億円出して土地を資産として買いました(1億円の土地を資産の増加として認識して、1億円の現金を資産の減少として認識する)。」という処理で終わりなのですが、会社を買った場合にはそう簡単にはいきません。なぜなら、たとえば会社を買って合併をしたときには元の会社は消滅してしまうからです。
 一般的に、会社はさまざまな資産が集まってできているものといえます。多くの会社では、土地や建物を所有しています。また、ほとんどの会社は在庫や現金をもっているでしょう。ひとつの会社を1億円で買って合併した場合には、その会社の中身(土地、建物、在庫や現金など)を分解して資産として計上していく必要があるのです。会社を買うために支払ったお金を分解していくイメージを考えるとわかりやすいでしょうか。
 仮想の会社を用いて具体的に考えてみましょう。あなたの会社がA社という会社を1億円出して買った場合を考えてみましょう。この会社が、以下のような資産をもっていたとします。

<A社の資産>
現金 2,000万円
商品在庫 1,000万円
土地 3,000万円
建物 2,000万円

 この場合、会社を1億円で買ったにもかかわらず、認識できる資産は2,000万+1,000万+3,000万+2,000万=8,000万円しかありません。差額の2,000万円分高い買い物をしているではないか、と思われるかもしれませんが、企業買収においてはこのように個々の資産の金額の合計よりも高い金額を出して会社を買うことはよく起こります。なぜなら、会社にはこれらの資産以外の価値があるからです。たとえば、働いている従業員です。人を資産として計上することは帳簿処理としてはないのですが、優秀な従業員が働いている会社とそうでない会社を比べたとき、他の条件がすべて同じであった場合には、質の高い従業員のいる会社により高い価値が生まれることは明らかです。
 また、別の見方をすれば、個々の資産の金額の合計よりも高い金額を出して会社を買わざるを得ない状況が考えられます。というのも、企業買収はオークション方式で行われることも多いからです。本当は9,000万円くらいしか出したくないけれども、あなたの会社がどうしてもA社を欲しい場合、少し高めの金額で入札しておきたくなる心理は理解できるのではないでしょうか。
 これらの理由からA社を1億円で買った場合、差額の2,000万円はどうなるのでしょうか。これが、ニュースでよく耳にする「のれん」という資産となります。
 以上をまとめると、図のようなイメージになります。最初に買収金額(1億円)が決まり、認識できる資産で徐々に買収金額を埋めていくイメージです。買収金額が容器の大きさで、各資産で徐々に容器を埋めていくといった感覚でしょうか。そして、埋め切れなかった部分、つまり差額がのれんとなるわけです。

取得価額配分のイメージ

 のれんはよく「超過収益力」と表現され、学術的にはさまざまな解釈があるようです。ざっくりとした一つの捉え方としては、A社のそれぞれの資産(土地、商品在庫、土地、建物)をバラバラに買ってA社と同じ事業を始めようと思ってもすぐにできるはずがないので、その分A社の方が高価値である、と考えるとイメージが湧くでしょうか。
 のれんの正体は、先ほど申し上げた従業員であったり、あるいは目に見えないノウハウであったりするわけです。ただし、のれんの金額である2,000万円ははっきりいって「後づけ」です。従業員やノウハウに値札をつけることは難しいため、単なる差額の2,000万円を便宜的にのれんの金額としているわけです。ですから、たとえば1億1千万円で同じA社を買った場合のれんは3,000万円、極端にいえば8億円を出した場合のれんは7億2,000万円となるわけです。

 「いくらなんでも個別の資産の合計金額8,000万円の10倍も出すはずがないだろう。」と考えられる方も多いかもしれませんが、企業買収ではこのようなことが実際に起こっています。たとえば、昨年ソフトバンクがイギリスのアームを買収したことが大きな話題になりました。同社の四半期報告書によれば、まだ暫定的な処理ではあるものの、アームの個々の資産合計から借金を引いた金額はおよそ1,500億円。これに対して、ソフトバンクが買い付けに要した金額は総額3.4兆円(!)。買付金額の大部分である3.2兆円が、暫定的なのれんの金額となっています。先ほどのA社で考えれば、資産合計が8,000万円の会社をおよそ18億円で買う計算になるわけです。業界のことを知らない私のような一般人からすれば不思議に思われる買収金額ですが、投資家として多くの成功を収めてきたソフトバンクですから、資産価値の20倍以上の会社を買っても元が取れる算段があるのでしょう。

とにかく、この差額の「のれん」が後の減損の主な対象になっていきます。(次回につづく)

(司空)

※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。