先日は、米国株式市場の本格的な下落の可能性について、短期金融市場の視座からお伝えしました(米国株式市場:ダウ平均は短期金融市場が引き金で下落?)。本稿では同じく懸念される米ジャンク債*市場の動向もまた、米国株式市場にとってはマイナス材料であることをお伝えしたいと思います。また、処方箋(取引事例)は上記のコラムにてご紹介しておりますので、そちらもご参照ください。
ジャンク債*
ジャンク債の日本語訳は投資不適格債です。投資不適格債は高格付けの債券に比べ、倒産などを理由に元利払いが停止される可能性が高い(リスクが高い)債券です。したがって、利回りは高めに設定されています。
<まとめ>
- 好調を維持してきた米ジャンク債市場も、金利上昇などを背景とした、10月以降の米国株式市場軟化によって水準調整(下落)を余儀なくされた。
- 今後の相場動向によっては、投資適格債市場で「格下げ」された債券が、大量にジャンク債市場流れ込む可能性も考えられる。その際は、金融市場全体が信用収縮に向かう可能性があり、米国株式市場もその影響を受けて、大幅に下落する可能性が考えられる。
これまで高いリスクと価格安定の両立が、人気の秘密だったジャンク債市場
上述の通り、ジャンク債は高いリスクを抱えているにもかかわらず、安定して推移してきました(図1 青色:米国のジャンク債指数)。緩和的な金融環境と景気の拡大が続いていたことから、懸念された倒産などによる元利払いの停止(デフォルト)件数が少なかったことが理由の一つとして挙げられます。 しかし、FRBによる早目の利上げペースに状況は一変しつつあるようです。10月頃より米ジャンク債指数は値下がり(資金流出)を続けています(図2)。金利の上昇やこれを受けた米国株式市場の下落がその大きな原因と言えるでしょう。流出した資金は、多くが米国債市場に流入したと思われます
米国金利が上昇する際、安全資産とされる米国債自体にも金利上昇圧力(米国債価格の下落圧力)はかかります。一方で、米国債は他市場からの資金逃避先として選択されることが多いようです。その際は市場の基準でもある10年債へ資金が集中することが多いので、10年債の利回りには下落圧力がかかります。
そのため、金利上昇期にあっても、10年債(長期債とされる)の金利上昇スピードは、例えば短期金利の範疇とされる米2年国債の金利上昇スピードに比べて緩やかなものになりがちです。その結果、短期金利の水準と長期金利の水準が接近するイールドカーブ(短期から長期までの金利曲線)のフラット化が進行することになります(下記 図3)。このあたりからも、投資資金は「質への逃避」を進めていることを確認することができます。
ジャンク債への大量格下げが相場の波乱要因にも
いわゆる「リスクオフ(危険資産から安全資産への資金移動)」の動きは、着々と進んでいるということが見えてきました。それでも米国株式市場が下げ渋ってきた理由は、法人税の大幅減税(35%→21%)による業績の底上げや、企業による自社株買いが、リスクオフの動きを見えづらくしてきたのかもしれません。
しかし、米国では法人税の減税効果が2019年度から剥落することにより、2019年における民間企業の業績は悪化が懸念されています。業績の悪化は、信用面でかろうじて投資適格(BBB格:投資適格の最低ランク)を維持していた企業にとって、その格付けを下げてしまう(ジャンク債=投資不適格債になってしまう)リスクがあります。
現在、ギリギリ投資適格であるBBB格の企業債(非金融)は投資適格債全体の約半数を占めています。信用度ではジャンク債を上回る投資適格債が年初来、下落を続けてきた理由は上述した大勢の格下げ予備軍を嫌気してのことだったのかもしれません。
実際にそうしたギリギリで投資適格を維持してきた企業債が、相場変動よって大量にジャンク債へと格下げとなると、悪い意味で急拡大したジャンク債市場では資金調達先の確保が困難(信用収縮)となることも予想され、株式市場を含む金融市場全体のリスクにつながる可能性も考えられるでしょう。
政策対応にも限界が・・・
米国政府としては、このように市場が発する危険信号から予見される数々の経済リスクは未然に防ぎたいところです。そうした背景があるからなのか、直近のトランプ大統領発言からはリスクの芽を早期に摘んでしまいたいという思惑が窺われます。例えば、FRBに対しては利上げを、産油国に対しては原油減産の動きを牽制する発言が聞かれます。
しかし、トランプ減税による米国の公的債務膨張により、長期金利は現在下がりにくい状況にあります。原油に関しては米国産シェールオイルの増産傾向に歯止めをかけない限り、OPECなどの産出国も遅かれ早かれ、減産に向かわざるを得なくなるのかもしれません。つまり、現状は市場リスクに対して政策対応が追いつかなくなりつつあると言い換えることができるのかもしれません。
長期金利の上昇や原油価格の上昇は、いずれも米国株式市場の下落につながりかねない要因として挙げられます。こうした米国株式市場の下落リスクについて、冒頭でご案内した(米国株式市場:ダウ平均は短期金融市場が引き金で下落?)において、リスク回避に向けた取引事例をご案内しております。ぜひご覧ください。
(eワラント証券 投資情報室)
※本稿は筆者の個人的な見解であり、eワラント証券の見解ではありません。本稿の内容は将来の投資成果を保証するものではありません。投資判断は自己責任でお願いします。